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20万打記念リクエスト小説

うえ〜ん、と小さな声で子供が泣いている声にタマが気づいたのは、ペンギンの次の水槽の前であった。
メインのペンギンの水槽の前は混んでいるが、次の水槽ではそうでもない。泣き声の主はすぐに見つかった。
2つの水槽を区切る太い柱の影で、子供が膝を抱えて泣いていたのだ。

タマは小さいものが好きだ。動物の子供が出てくる番組はすべて録画してあるし、暇なときは教育テレビの子供がたくさん出てくる番組だって見ている。体操のお姉さんと一緒に踊る小さな子供は、おでこがつるっと大きくて可愛くて仕方ない。
最近はタローの身長も抜かしたタマである。自分に身長を抜かされてわなわな震えるタローは最高に可愛い。

だので、タマは戸惑うことなくその子供に近づいて声をかけた。小さいものはタマを癒してくれる。迷子の二人にイライラしているので、小さな子に癒してもらおうと思ったのだ。
「どうしたの?」
声をかけると、子供は膝から顔を上げた。目をうるませて自分を見上げるその子に、タマはハートをキュンと撃ちぬかれた。
眉のあたりで切り揃えられた前髪は黒くつやつやで、服も小奇麗である。女の子なのか男の子なのかわからないが、大きい目は今にも落ちそうなぐらいだ。ほっぺが赤くてりんごのようである。鼻もちょん、とついていて、まるで2日前にテレビで見た子犬の赤ちゃんみたいだ。
「・・・おねえちゃん、だあれ?」
こて、と首をかしげるその仕草に、もうすでにタマはめろんめろんであった。

「おねえちゃんじゃないよ、俺は男だよ。」
その子の前に屈み、濡れた頬を服の袖で拭ってやる。きょとん、とした子供は、年齢よりはいくらか幼く見えた。
「おにーちゃん?おにーちゃんきれいね。」
「そうかなあ?おにーちゃんの名前は環っていうんだけど、君は?」
「ぼく?あめ。」
名前を尋ねると、疑うことなく教えてくれる。泣いたなんちゃらがもう笑う。子供はすでに笑顔である。タマの胸は高まるばかりだ。
・・・なんて素直なんだ、この子はっ!
「あめちゃん。」
「はーい?」
「・・・くっ、」
手を上げて返事する姿があざとすぎる。もしかして鼻血出てね?と鼻の下を抑えたタマは、ニヤニヤした顔を隠さないまま、雨の頭を撫でた。触り心地がいい。

・・・そんなことより、大事なことを忘れていた。
「あめちゃん!どうして君はここにいたの?なんで泣いてたの?」
「ぼく?・・・わかんない。いないの、つかさ。」
「つかさ?」
どこかで聞いたことのある名前だ。
「つかさはね、かっこいーの。つよいのよ。ぼく、つかさのことすき。」
「そっかあ。」
うーん、つかさとは、年の離れたお兄ちゃんか何かだろうか?
「・・・でも、つかさいないなった。どこいった?ぼく、わるいこ?ぽいされた?」
喋る雨の目はまた潤んでいる。つかさとやら、誰だか知らんが、こんな可愛い子を放っておくなんて、許すまじ・・・!
「あめちゃんはいい子だから捨てられてないよ!俺が保証する!・・・多分、つかさは迷子だ!」
そう断言したタマは、不安そうにする雨の手をとって立ち上がらせた。
「だから、一緒に探しに行こうよ!」

実はこう見えて雨は迷子のプロである。
なので、迷子になったらどうするべきなのかはある程度知っている。
動かないで泣いていたら、親切な人が雨を迷子センターまで連れて行ってくれるのだ。
だから、動いちゃダメだとは思うが、雨はちょっぴり頭が弱いので、どう言葉にすればいいのかわからない。
首を傾げているうちに、タマに手を引かれて、されるがままの雨は歩き出していたのであった。
その場に司が戻ってくる、ほんの2分前のことであった。

さて、二人の迷子の道中の会話である。
「つかさは、どんな人なの?」
「おっきー、あたまくろい。かっこいい。」
「・・・ふーん。」
タマと雨からすれば大体の男は背が高い。雨の言葉は抽象的すぎてよく理解できない。
「見つかるといいねえ。あ、あめちゃんは何歳?7歳ぐらい?」
「ぼく、・・・なんさいだろ?」
「うーん。俺は7歳だと思う。だから7歳でいいんじゃない?」
末っ子体質、甘えん坊で、ある程度のわがままを許されているタマはかなり傍若無人である。
「いい?」
「うん。いいよ。あ、見てあめちゃん、なんかいるよ!」
タマに手を引っ張られて、足の悪い雨は少しよろけた。タマは気づかずお構いなしである。
「見てあめちゃん、イルカ!」
「いるか?」
「うん。きゅう〜〜って鳴くよ!」
「かわいーだね。しろいね?」
「うん。ずんぐりむっくりだよ。ぽっちゃりだ。」
「ずん・・・?ぽちゃ?」
タマは喋るのが早いので、聞き取れない言葉が多い。難しい言葉を喋っているし、タマはもしかしたら偉い人なのかもしれないと、雨の中で勝手にタマの評価が上がっていく。勘違いも甚だしい。
ひと通りイルカを見て満足した二人は再び歩き出した。水族館は楽しいのだ。
すでに、自分たちが迷子だとか、デートだとかそんなことは頭からすっぽり抜けているのであった。

「おにーちゃん、おさかな。」
「いっぱいだねえ。可愛いね。あ、ニモ!」
「にも?」
「ニモはね、冒険する魚なんだよ。凄いんだよ。」
「すごい!にも、きんぎょ?」
「金魚ではないよね。金魚はもっとこ、ひらひらついてるよ。」
「ひらひら。リボン?」
「多分ね。」
・・・彼らの会話にツッコミを入れるものは、ここには誰もいないのであった。

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あきゅろす。
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