変装名人VS傍観者 「…意味が分かりません。」 “私がお前を助けてあげる”先輩がそう言ったのに対して俺から出た言葉はそれだけだった。 この先輩と対峙して話すのには一苦労だ。 話術で敵を惑わせる。 この人にはその能力が十分に備わっている。それはこの4年間で痛いほど痛感してた。 「そんなにお前は馬鹿なのか?私はただ“お前を助ける”と言ってるんだ」 「それは分かります。ただ俺を何から助けるというのですか。困ってもいないのに。」 先輩は肩透かしをくらったような顔になった。これも演技。この人は確実に仕留められる相手しか相手しない。自分の力量が上だったとしても確実に仕留められると踏まない限り何も行動を起こさない。 この先輩はそういう戦いをする人だ。 「たしかに困ってはいないな。」 ほらやっぱり。さっきの顔とは逆に何かをたくらんでいるような含み笑いになる。 焦るな。 この人のペースに飲まれるな。 俺は弾みかける呼吸音を静まらせ緊張から吹き出た汗を拭う。 「お前は思っている。ひとりはさみしい、と。違うか?」 「先輩には関係のないことです。」 「さみしいんだろう?」 「うるさいです。」 「正直に言え。さみしい、と。」 「違います。」 「ひとりはさみしい」 「黙ってください」 先輩はペラペラとまるで計画道理だという風にしゃべる。 そして仕上げと言わんばかりに狐の仮面を取ると何かの顔を即座につける。 「さみしい。俺を見てよ。ひとりにしないで。」 仮面は俺の顔だった。顔を俺にして声を真似し俺に縋り付こうとする先輩に俺の過去がリフレインする。俺の嫌な過去が。 俺は我慢できなくなって自分の手で先輩の仮面を剥ぎ取った。 「ほらさみしいんだろう?」 「…腹がたっただけです。」 この反応もきっとこの人の計画道理。俺はたぶんもうこの人の手の平の中だ。 どれだけあらがいきれるか…それが問題だ。 「お前は気配を消すのが得意なんだったな」 「…そうですが。それが何か。」 「一芸は昔嫌なことがあってそれから逃れようとして必死になって体に身につくものなんだよ。違うか?」 「うるさい!」 「本当は私の言ってることをものすごく理解しているんだろう?」 「!」 俺はここにいてはいけない どれだけでも我慢する けど存在を許してほしい せめて隠れられれば…俺はいてもいい? 「あんたには関係ない!」 俺は手に力をいれ爪を食い込ませる。 逃れられぬメビウスの輪 (仕組まれた出口のない輪に)(負けを認めるまでは)(出ることはできない) |