傍観とは存在意義
早朝
二年い組が一年は組をいじめていた。
本当は面倒見がよくて出来の悪い子が大好きなくせに。
ほら二年は組のポーッとしている奴のフォローに回っている。素直になればいいのに。
朝ご飯
昨日、本業海賊兼業漁師の人達のところへ一年生がお使いに出たから鯖だった。
五年生が「豆腐がない!」と騒いでいたが豆腐なら昼ご飯に出るから騒ぐことないと思う。だけどあまりにもうるさかったのでおばちゃんに昼ご飯用の豆腐を出してもらいソッとその人の机において置いた。
授業中
三年生と四年生の合同実習だった。
三年生と四年生がペアになり合戦においてプロの忍びから逃げるというもの。大半のペアが仲が悪いために喧嘩を起こしているようだったが近距離武闘派の三年生が長距離トラップ系の四年生に敵う訳がない。
ちなみに俺のペアは途中で脱落した。組んだペアが悪かったんだよ。
ペアの子は基礎がしっかりした刀使いだった。けど基礎に捕われすぎた剣術ほど脆いものはないって事だ。その危ういところを四年生が助けるというものなのだが残念ながら俺はそんなことが出来ない。俺に武器はいらないからね。強いていえば戦況把握かな。それさえあれば逃げ切れる自信があるし。
昼ご飯
俺がランチを頼まずにおにぎりにして出ていこうとしたら一年生の子が近づいてきた。
俺は基本気配を消しているけど年齢が低いほどそれを弱めてしまう。だから年下ほど私の存在を気づかれやすいみたい。俺も精進しなきゃな。
昼休み
校庭で穴を掘っている人と穴を埋めている人がいた。
まるでイタチの追いかけっこ。穴をひとつ埋め終わるころには穴をひとつ掘り起こされている。
穴を埋める前に穴を掘る人をどこかにやった方がいいと思う。…あ、掘る人が増えた。ご愁傷様。
放課後
虫取り網を担いだ人を何人も見た。
ここはさっきも見ていたのにあの髪がボサボサな人また同じ所を見てる。
それはいいが探しているモノがすぐそこにいるのに気づかないのが面白い。
教えてあげたくない訳ではないがあくまで俺は傍観者だから何も言わないし何も行動しない。
あーあ気づかないで行っちゃった。まぁ虫はカゴの中に入れておくより放しておいた方がいいよな。俺は虫助けをしたんだ。そういうこと。
夜
お風呂がとても熱いが気にしない。放っておいたらだいぶ冷めた。というか風呂焚き当番の子が俺に気づいていないだけ。
まぁいいけど。夏だし。冷たいほうが。完全な水風呂になった所で風呂焚き当番の子に声をかけた。驚いて変な声だしてた。
温かくなり湯気が上がりはじめた時に人が来た。一年は組の生徒三人とその担任の先生だ。
俺は湯気に紛れ込み行き違いで風呂を出た。俺が袴をはいていると足並みを揃えて「熱い!」と叫ぶ声が聞こえた。
深夜
言い忘れていたが俺だって四年生だ鍛練くらいする。
とは言っても俺の特技は紛れること。鍛練をしている中に気づかれずに入り込み出てくるただそれだけ。
簡単なようで難しい。恐怖を覚えてはいけない。常に平常心で息を殺す。そして周りの物に同化する。
沢山の条件を揃えてこその技だ。
俺はそろそろ鍛練を終わらせようと息をひとつ吐いた。
「名前」
「あぁこんばんは先輩」
声をかけてきたのは俺を気配なく探せるたったひとりの先輩。
「いつもの鍛練か?」
「そうです。」
毎回そうだと言ってるじゃないですか。
俺は無意識に警戒息を殺した。
先輩はただ校庭を見ながら呟いた。
「…そんな鍛練ばかりではなくあの中に入ればいいのに」
それも毎回聞く言葉
「いいんです。俺は。」
このままで…
「そうか…」
先輩はいつも通り納得のいかない声で返事をした。
けど誰も俺から傍観のポジションを奪えやさせない。
趣味?人間観察です。
(傍観って楽しいですよ)(傍観することが俺のステータスであり)(アイデンティティだから)
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