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短篇
リターン魔-8
魔王が死んだ。魔王が殺されたとの通達が世界各国、魔王が支配していた地域から幹部全員に届けられた事によって、世界は盛大で巨大に動揺する事になる。
主犯となったのは力の強さから側近として控えていた魔人二人。更なる力を求めて奴隷を堕とす為力を取り込もうとしたその隙をついて、首と心臓を潰したとの話。
この日の為に持っていた大斧には知り合った聖職者の加護を重ね掛けしてあり、隙を突けた事と合わせて想像以上に容易く魔王の命を落とす事出来た。奴隷も纏めて始末した。

その後、魔王の死体を前にして、側近達は事前に示し合わせた通りに、魔王の身体を残さず喰らい尽くした。更なる力を得る為に、骨を噛み砕き、脳も髄も臓物も啜り、血さえも床を舐め尽くして味わった。
という事になった。だって魔王の死体は既に赤黒い塵しか残っていないのだから。側近達からの抗議もあったが、他に何か良い案があるのか問い掛けてみた結果、何も返って来なかったのでやむを得ずそういう事になった。

滾る欲望のまま玉座の間でそのまま、斬り殺した奴隷の身体を使って猛烈な勢いで昂る興奮を収める事にした。魔王の肉を食っている間に冷えた身体に穴を突っ込んだ。精液と血と内臓の混ざった歪な液体を撒き散らして、魔王が存在した玉座を本能のままに汚した。
という事になった。こっちの名誉もちゃんと汚したのだからまあこの辺でいいでしょう、との威圧に側近達は何も言い返す事が出来なかった。合わせて偽装の為に自分で自分の血と内臓を玉座の間に撒き散らしたのならば何も言えまい。
そこまでやっても普通に生きているどころか、側近達の目の前で死ぬ事も無く皮も何もかもが消えてしまったのだから。

「魔王は居なくなったんだ!」
「魔王様はもう居なくなったんだ!」

今でも抵抗を続けていた同盟軍は奮起したままに、早々に勝鬨を挙げる軍さえも存在する有り様であった。魔人側も粉骨砕身の思いで無茶な作戦に参加させられる者がいた。
自分こそが新たな魔王であると豪語する幹部も魔人も両手では足りない程の数が居た。魔王の存在が偽装でも何でもなく完全に居なくなってしまった、死んでしまったのを認めて自死を選んだ幹部が居た。
側近の身体から魔王を復活させようと、敵討ちとして、復讐として。側近達を追う者は魔人だけでなく同盟軍や研究者達にもいた。何だったら徒党を組んで襲う事さえもあった。世界全てが側近に視線を集めていたのである。

だが、側近達を追った者は例外なく倒される事になる。圧倒的で超常的でさえある魔王の力を引き継いだ側近達は、武器を振るわずとも鎧を両断する事さえも容易かった。
幹部の力を触れずして制圧。同盟軍側からの複合魔術さえも言葉を紡ぐだけで吹き飛ばし。数百数千どころか数万の兵士さえも、その圧倒的な力と殺しても死なないとんでもない力で制圧、打倒、撃破。
その後姿を消し、魔王と魔王を討った者さえ消失してしまった世界の情勢は、早大に揺れる事になる。だろう。絶対に。

「という流れになってしまったのです。報告としてはそのくらいですかね……」
「うん……思ったよりも君が派手に暴れている様に聞こえたんだけど?」
「野生の獣や普通の兵士相手には普通に戦えるんですけど名有りの相手や幹部が出て来ると急に身を縮こまらせましたからね…今みたいに」

そして此処は魔界である。狼人型が世界に送り込まれてから半年弱の時間が。戦士として挑み奴隷になってから数ヵ月。側近がこの世界に降り立ってから、まだ一時さえも経っては居ない。
不定期な戦いを経て狼人型の力は全快した。全力で出しながら手加減や我慢さえも十分に出来る程に仕上がってしまっていた。その結果がこれだ。魔王さえも適わないと、本能的に側近達は理解する。
今しがたそんな狼人型と気楽そうな表情を浮かべている相手が、狼人型の、この世界にとっての魔王と、自分達の世界で再来と豪語していたあの魔王とは比べ物になりさえもしないと分かってしまっていた。

「置いて行っても良かったのですけど、偽装したのは私の責任でもありますし、逃げてる間に気晴らしと興奮に身体を重ねまくった相手でもありますからね…少なくとも『生きて居たい』と言質は二人とも取りました」
「強引に連れ出したり召喚術式を悪用した訳でもないから処分は無いかな……時期が時期だし……それで、今まで魔王軍の最下層から見上げて、次にどうすればいいと思った?」
「ええ、もう私の心は決まっています。魔人もただの突然変異、私以外の魔人であっても対応は容易であるのでしょう…ですから」

今更何をやっても、止められるだけの力は持っていないという事だけ側近達は理解出来た。

「混乱と戦乱を止める事にしましょう。それが終われば希望者の魔人を向こうの世界に移住させるのがよろしいかと」
「……は?」「……な?」
「私の尻拭い、三人目以降の向こうの世界で魔王を名乗る者の監視……それと変化。違いが新たな力を産んでくれるのならば…世代が進む程に、私達が鈍ってしまわない世界に鍛えられる筈ですから」

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