短篇 1 最近どうにも様子がおかしいと思わないか? 畑も荒れ果ててペンペン草ひとつ生えやしない。澱んだ水になってしまった川には魚一匹棲んでいないし、 太陽はずぅっと厚い黒雲に隠れている。鳥のさえずり声も聞かないな。確かにおかしくなっている。 何故だ? …山の神様が怒っているんじゃないのか? …仮にそうだとしても、どうやってそれを鎮めるんだ? …誰かを神様の供物にすれば、怒りもおさまるだろうさ。 誰をだ? ……神様にその身を捧げたい者は? ………… ……いないよな。大体どう捧げるんだ? …山に置いてきたら良いのではないか? そいつが逃げたら神様はさらに怒るぞ? …じゃあ樽の中に入れて、外側からぎちぎちに縛り上げて運べば良い。 ……で、誰を捧げるんだ? …お前の所の三男坊なんか…… 何だと、この野郎!ぎゃっ……いきなり何だ、こいつめ! わぁ、誰か止めろ! ……確かに、自分の子供を捧げるなんて、到底無理な話だよな。 しかし誰か犠牲にならなければ ……!待ってくれ、いい奴がいる。 何? 町外れにみなしごがいるんだ、いなくなっても誰も悲しまない筈さ! もし抵抗でもされたら… アイツは痩せぎすで随分小柄なんだ、抵抗なんか出来っこないって! ようし。では、いつ山に? 明後日の夕方からなんかどうだろう。その日なら暇が取れそうなんだ。 俺なんか毎日暇だ。山にも何度か登ったことがあるぜ。 …供物の運び役、やってくれるか?あたぼうよ。報酬は? そうだな…来年家の畑で獲れた麦の一割でどうだい? そういうことなら世界の裏側まで運んでやるぜ! ははははは。よろしく頼むよ。 それじゃあ、解散。 供物役には適当に嘘を言っておく。 ・ ・ ・ [次へ#] [戻る] |