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短篇

その山は遠くから見ると平坦な盆地に見える。
見事なまでにひしゃげた形で、高さを感じさせない。
だが判別のつき難い頂上まで登るには結構な時間を要する。

夕方に登り始めたなら頂上では星が瞬く様をはっきりと見ることが出来るくらいに。

「助けてー!誰かー!」
くぐもった声は山中に虚しく響きもしない。閉じられた中で反響する。

「暴れて転がったら大惨事だ」というお節介で適当な樹に縛り付けられた樽。

その内部で痩せぎすな青年が一人、樽を叩きながら叫んでいる。

しかし周りには誰もいない。
精一杯叫んでも腕が痺れるまで樽を叩いても誰も応えない。
そのまま時間だけが過ぎていって、青年の声は掠れ、腕が鉛のように重くなって、

運び役の面々が適当な話をしながら町に辿り着き、

青年は身体を震わせていた。

窮屈な樽の中では身動き一つ取れやしない。無理矢理押し込まれたから足首から痛みを感じる。
更には寒さが青年を襲っている。

いきなり呼ばれたかと思ったら樽の中に放り込まれ、俺等のために命を捧げてくれだか言われ、
何が何やら解らぬままにここに縛り付けられた。

なぜ自分がこんな目に遭わなければいけない。

自分がいったい何をしたというのか。

頭の中で考えが膨れ、それが解けぬままに体力が消耗していく。

「……だれか………」

とっくに月は降り始めて、星が輝きを失って。樽は全く動かない。
外見の変化は何も無い。ただ青年が中で震えているだけだ。
寒さによって身体を縮こまらせて、動く気力が尽きかけている。
このままずっと樽の中で、誰も来なくて、何時しか身体が活動を止めて、心の臓から頭から足先まで完全に止まってしまうんだ。

何にも解らぬまま。

青年の頭に霞がかかり、ぼうっと、眠気が染み込んできて、瞼が重みを更に増し、



何も見えない筈なのに光が溢れた。

誰もいない筈なのに何かが触れたような気が

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