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姫抱きのフライハイ
「…何時もここで調味料を買ってるんですか?」

フーガさんの手元には、塩と胡椒と幾つかの香辛料が入った紙袋。
「品揃えが良いし、時々見た事無いような物が売ってるからね…それよりサイ君っ。」
「はい?」
「『薬屋』までちょっと遠いから、飛んでいこうと思ってるんだけど…」
背中から生えた翼を揺らして、飛ぶことをアピールしている。
別に何の問題もない筈だけれど……

「…後ろから君を掴んでいいのかな?」
「あっ……」

あの日あの時に酒場の中でいきなり後ろから覆い被さられた
口を塞がれて何もできなくて
爪で胸元に何度も何度も傷を


「…駄目かもしれないです。」
「そうか…じゃあ、両肩を掴むか抱っこの要領か……」

両肩を掴む…自分を足で支えて飛ぶに違いない。鳥人だから……
抱っこの要領…自分が胸元にしがみついて飛ぶ。辛そうだが、仕方あるまい。

「…抱っこの方が……」
「…ふーん、そっちが好きなんだ……」

向けてくる笑い顔が今まで以上に輝いて見えるのは何故だろう。

「じゃあ、これを持って。上は結構寒いから気を付けてね…」
「はい……」
渡された調味料入りの紙袋をしっかり抱えて、翼を動かすフーガさんを見る。
前から自分の肩に手を置いて、向きを横にしてそこから膝裏に手を……え?

「飛ぶよーっ…」
「フーガさん、ちょっと……っ」

町中の賑やかさがどんどん遠くなって。
地面が小さく見えて、落ちまいとつい身体を縮めて、フーガさんがより力強く抱いて……

「…これって、お姫様抱っこじゃ……っ」
「ん?あまり身体を動かすと落ちるよ。ひゅーんって」
「……っ…」

落ちるのは嫌なのでそこで話を止めた。上から見る町というのも新鮮だ。
鳥人が飛べるのは物理学云々では解明されてないらしいけど、そんな事もどうでもよくなる。

だって現に飛んでるじゃないか。それだけで十分だ。
寒いというよりは風が涼しく心地良い。

これで行き先が薬屋じゃなかったら、完全に晴れ晴れとした気分だったろうに。

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あきゅろす。
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