食事後のアートワーク
「……御馳走様。」
トースト数枚と軽い卵料理をたいらげ、食後のお茶を飲み干し、一息ついて
所長他二名が未だに来ない。
……が、始めての事ではないので気にする必要は無い。
結局あの日は丸一日所長を見なかった。
鍛練場、ではなく自分の部屋へと向かう。所長が起きるまでにどれだけ掛かるかは分からないが、暫くは暇になる。
着いたらドアを閉め、備え付けられていた簡素な椅子に座り、机の上の小さい紙片を手に取る。
手のひらに収まるくらいの正方形の白い紙。まだ魔法陣を描いている途中だ。
ポケットから『捕集器』を引きずり出し、何気なく机の上に置く。
簡単な魔法を、前にやろうとして失敗した『小さい火』も『水』も簡単に出すことが出来た。
正直胸が少し熱くなった。
と、『どれくらいの魔法まで使えるのか』という興味が自分に湧いてきて、
なので魔力の消費が多く、難しいものに挑戦している。
無論、魔法陣の緻密さも相当。一番細い線が引けるペンに魔力を通しやすいインクで、
定規や何やらで正確に、蜘蛛の巣を張るような気分で描いていく。
…まあ、描き上がった所で使えるかどうかは解らないが。
前にロッシュに尋ねてみた所、「魔法陣は専門じゃない」と返され、
フーガさんには悪いが自分にはとても部屋に訪れて質問をする勇気が無い。
だから完全な独学で。一応知識だけはある。
『捕集器』の集めた魔力が足りなかったら使えない。
魔法陣自体が間違っていても使えない、若しくは突然変異を引き起こしたりで、大変な目に遭うかもしれない。
もし使えたとしたら、もしかなり強力な魔法が自分に使えるようになったなら
……それが楽しみで堪らない。それで多分何度か失敗してもくじけずにいられる。
唯一の問題といったら、使えるかどうか試す手段が思い付かないことだ。
鍛練場なんかで試して使えてしまったら色々とんでもないことに……
こつこつ。
「サイ君?いるかな……」
「っ……フーガさん?」
突然何の用だろう。ドアを開けたくない自分が此処にいる。
開けてしまったら、例によってあの服の鳥人がいる訳だ。
見慣れてしまったけど、カウンターで下半身はあまり見ていない。
全身が見えるのが、少し怖い。
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