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風景、強制連行、上空
割り切ってから進む列車の風景を眺める。これといった絶景でもないが暇は十分に潰せる見慣れた景色が流れて居る。思考をゆっくりと停止させれば時間の流れも早い。誰かの話し声、景色、宙に浮かぶ旧友。

「…おい、何だあれは!?」「人だ!人が列車の脇を並走して居る!」「ぱねぇ!」

紙袋に粗雑な顔を書いた物を被って隠しては居るが間違い無く彼は彼で間違い無い。そうでなければピンポイントで自分を紙袋の穴越に捉えながら緩やかに手を振るなんて出来ないだろう。
その手には何かしらの液体の詰まった小瓶、筆を手に取り中の透明な液体が窓に浴びせ掛けられて。彼の指先に吸い付く様に取り外されると外の風が中に吹き付ける。肩口が掴まれた、足元が宙に浮き上がった、身体が持ち上げられて。
抵抗しなかったからだろうか、客達が自分の身体が列車から抜けて行くのを呆気に取られた視線で見つめるだけだった。気が付いた時には自分の身体は列車の外、視線の下には走りゆく列車の姿が見える。

「…今度は、何?」
「いやー、御免ねサイ。本当に急で…でも君が必要なんだ…そういう意味じゃなくてね?今僕等が回されてる依頼の中で助けて欲しい…当然君のなまか達にも話は伝えてある…乗り気じゃなさそうなのも居たけどね…」

トキザが飛んで居る方向は便利屋でも無い、それ以上にこの国である依頼かどうかも分かりはしない。支部か本店か何方が受けたのかで規模が異なる。トキザが自分を呼んだのは、シゼルニーも居る事だろうか。ならば一切の問題は無い。

「…因みにどっちが早く依頼場所に着く事に」
「たいちょー達が先に。続いて僕達が。次には君の仲間達がやって来ることになってるけど、後はハス君が…君の従兄弟が憲兵に捕まってなかったらもう来てると思うよ。防具無しで駆動機をかっ飛ばしてるから」
「…相変わらずみたいで…シゼルニーの調子は?」
「あの子ったらめっきり内向的になっちゃって…僕から貰ったお金で古本屋で買い漁っては読み漁って何とかしようとしてるみたいだよ?」
「…………」

明確に変化して居る。これで真実を語ってしまったなら彼はどう想うのだろうか。暫くナイショね、と言っているので無論其の通りにする予定である。天気は良好、景色は素晴らしくて側には友達と何もかもが悪くない。
所長含めた自分の仲間達とトキザ側の所長の仲が良くなるかどうかは不穏な空気が立ち込めては居るが。ハスケイヴ以外の仲間は、友達の大事な仲間は何であっても信じるべきだ。多分は。
更にトキザは高度と速度を上げ続ける。先程自分のマフラーの限界点を突破した事から恐らくは誇示だろう。

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あきゅろす。
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