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困憊、個人突貫、徒然
完全に何方が優勢だったのか目に見えて理解出来るが、さりげなくラーツの体力も明らかに消耗して居る。常人ではなかったとしても彼とて徹夜で他人と組手をして無傷、そんな事何処かが狂ってなければ不可能だ。

「それは有り難う…ナイシャンさんは僕に対して何か言ってた?」
「朝で良いから来てくれって…俺なりに話は付けといたからその辺りも感謝してね」
「感謝してもしきれないよ…それじゃあ、また何時か会えたら」
「そーだね」

最後に言葉を告げて居れ違いで部屋から出る。背後で扉が閉められ耳を済ませてみると、床に背負ったキノギアごと倒れ込んだ様な音が聞こえて無音になってしまった。我慢して居たのが一気に解き放たれた様な感じだろう。
自分とほぼ同時に隣の部屋からセンヤが出て来た。ぼんやりとした表情と覚束無い足取り、未だに眠気の方が強いのを無理矢理起きた様な様子である。昨日より糸の様に細い視線が此方を捉えて。

「…寝癖からラーツの匂いがするのは何で…?」
「疚しい事はしてないから」 
「成る程ー………」

そのままよたよたとした足取りで自分とは反対方向へと向かって行った。誤解してくれたのかどうか、他人に話すかどうかすらぼんやりとして居る。念押ししたらまた勘ぐられる、祈るしか無い。
物凄い勢いで背後から誰かが走り抜けて来て居る。もしかしたらと思うがやはりその通りで振り返るとナイシャンさんが自分に向かって飛び込んで来て居て。

「…サイくぅぅぅぅんっ!」
「っ」

そのまま熱い抱擁を受けて肺が苦しくなる。何と無く分かって居たがラーツは彼自身が知る限りの境遇を打ち明けてしまったらしい。加えて反応からするにかなり話を盛り込んだ上で。
絵描きに保護をされた所までは話をした筈だ。それ以上の事は自分は話しては居ない。特に話す必要も無いからだと考えて居たのだがそれを話してはいけないと告げ口されていると読んだとしたならば、簡単に酷い目に遭って話さぬ様告げ口されていると考えたのか思い付いたのか。

「ごめんよ…ほんっとうにごめんよぉぉ…今更あれを許さなくても良い…しかし、私はこれから君の味方」

涙目にすらなっている彼の側頭部に膝が突き刺さる。強烈な一撃でも抱擁する力は弱まる事無く自分の身体ごと床に倒れこんでしまって。繰り出したのは何時もの彼女ではなくハノンだった。

「ストリータ・ヘキサルはどうなった?」
「無罪放免、それより」

踏ん張ってナイシャンさんを剥がし引き起こされる。顔に両掌が重ねられて視線が合わされ、無機質な瞳同士が重なって。ハノンはどうやら自分の瞳を見ているらしい。

「…ジェロントの心理読解、完全に防ぐのは私も不可能だった。もう既に、届かない…?」
「……その内解る、それとも明かす」
「…………」

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