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仮眠、起床時刻、帰還
友人が普段使って居て、更には共有して居る相手も居るのであろう部屋の中で一人。変な緊張はしていないが落ち着かないのも確かで、それでも眠くなったものは仕方無い。
布団を被せられて感触やら匂いやら、枕に少しばかり付着して居る狐の体毛等を感じながら意識が解けるのを感じる。興奮を感じたりはしない。ラーツ達とはそういう仲では無いものだと頭の中で決めつけているからだろう。

「…………」

便利屋の仲間達とどちらが大事なのかは、決められる筈も無い。何方も同じぐらいに大事だ。その辺りは今の自分の様にはっきりとは決められない。眠さが全身を包んで緩くなる、布団を被ったまま身体を外側に見せず体勢を変える。
うつ伏せになって、普段ラーツが使っている枕に自分の顔を押し付ける様に。眠くて目を閉じながら、息を吸い込むと匂いをそのまま感じる。興奮はしない。ひたすらに落ち着く。
数年間、具体的にはあの時から印象を決めて居る。外見に、性格に声色に口調に嗜好、その中も匂いで誰がどうだとか判断出来る筈だ。これは友達の匂い。出会ってから殆ど変化しない懐かしさに折れない曲がらなさにその他。
有る意味では兄弟みたいなものだろうか。そういう意味では無いにしても大事に思える仲。自分もそうだった、ウサギ君も自分の夢の為にろくに語ってなかったがラーツだって昔の話を聞いた覚えが無い。結局似た者同士だ。

「…………」

もうこれ以降無理矢理起こされては自分の気分は確実に悪くなる様な眠気だ、眠ってしまう。大体数時間ぐらい、ラーツは叩き起こしてくれるだろうか。有る意味で安心して居てそのまま眠り込んでしまう。 
そんな時に限って違和感も全てて消え失せてしまって、当たり前の様にラーツのベッドで意識を落とした。
そして目覚めた時には、何故カーテンの隙間から朝日が差して居るのだろうか。一人で有る事に変わりは無く、布団の隙間から見ても部屋の中に入った時と何もかもが変わって居ない。

「…………」

随分と長く眠ってしまった。いや、ラーツが何故か自分を叩き起こそうともせず、更には部屋を共有して居るであろう相手まで巻き込んで自分を一人にしてくれたのだろう。
眠気も何も無く空腹なのだとはっきり感じられる。良い朝だ。憲兵に拘留されてから一日過ごしてしまったのは極めて宜しく無いと思うが、先ずは本人から聞き出すのが良いだろう。

「……やぁ、そろそろ起きた頃だと思った」
「……ラーツ、今まで何をしていたの?」
「…別に…ちょっと徹夜でキノギア君と組手してただけだよ……」

ラーツが怖い。此処まで自分に対する気遣いが出来る様になったのは良い事なのか悪い事なのか。彼も変化している。
キノギアと言うのは白目を剥いて背負われて居るハイエナ人の事だろう。疲労困憊だとかそういう所を完全に通り越して居るのは明らかで、でも何時ものラーツだと僅かに安堵していた。

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あきゅろす。
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