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同伴、罪状確認、遭遇。
レンカさん達と離れてから、ごく平然と自分はハノンに手を引かれて、それが当たり前の様に女性用トイレの個室の中に連れ込まれた。誰にも擦れ違わなかったのは幸い、これから話される出来事はそこまでの事。
便座により近い様に向き合い、自分の目の前で立てた人差し指を口元に当てがっている。その通り自分は一切喋るつもりは無い。ばれてしまえば恐らくラーツから絶縁される。
休日だからか目立たない色をした私服に小脇には鞄を抱えて居る。このまま旅に行ってもおかしくない。寧ろ行く気なのだろうか。

「義兄の居場所が分かった…この国の中に居る、と」
「…………」
「ついて来て欲しい」

事の大きさを速やかに理解出来た。見付けられる事自体が奇跡的であり、あんな彼を野放しにしてしまったならどれ程の事が起こり得るかも想像に難く無い。父さんとはまた違ったやり口な筈で。
無言で頷くと再び手を引いてトイレから出る。誰も見て居なくて良かったとさり気無く思いながらも普通に足を進めるハノンを追って。自分も巻き込むつもりだ。それも断れそうには無い。
巻き込む理由としては顔馴染みであり護衛でもあり人質でもあるのだろう。或いはやらかしてしまったのかそれとも。ハノン一人で背負い込むには重過ぎる事なのは確かで。
金銭、マフラー、捕集器、何もかもを常備して居る為に無断で蒸発する以外は特に問題は無い。駆け落ちと取られてしまうかもしれないがその辺りは割り切る事にする。

「…………」

据え付けられて居た窓から自分達は建物から抜け出した。身長差の関係でハノンに手を取られ引っ張られ、案外情けない光景。赤の他人でも、見られなくて良かった。
普通に各所を通り抜けて、呆気無く自分達は敷地内から抜け出し、前と同じ様に二人で列車に乗って適当な街で出る。ハノンの義兄はある意味では一番厄介であり、その通り雲を掴む様な希薄な存在だ。考えよりも直感を優先した方が見付け易い気がする。
取り敢えず暫くの間彼女と共に適当に歩き回る事になるのは確定事項だ。二人一組な分前よりも極めてデートに近い。

「…一体、どうやって存在を知ったのかな」
「通達が来た。…ー国の大臣の殺人容疑が掛かってる、と…目撃情報から包囲網が出来上がろうとして居る、その前に」

憲兵としては逸脱した行為。それでも彼が良からぬ事を何も考えず行うとは思えない、面倒事に巻き込まれて今尚逃げ続けて居るかそれとも、気が付けば自分の背後に置かれる柔らかい指先の感触。

「…何やってるの?」
「…………」

声の出て来た位置からするに自分より背は高めだ。殆ど当たり前だが。馴れ馴れしさから察するにハノンの知り合いだろう。
ゆっくり振り向くと、若草色の鱗を備えて居ない、実に柔らかそうな見た目をした竜人が居た。

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あきゅろす。
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