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銃弾は穿つ、人外は気付く
腕が跳ね上がる。特製の弾頭が込められた改造装飾銃がそれに合わせて浮く。振り返ったシゼルニーは驚きの表情を見せるが、もう遅い。何故なら既に気付かれてしまったのだから。
自分が放り投げてしまった装飾銃は、銃弾の残骸を少し宙に飛ばしながら後方に暫くの間飛んで、床に落ちた。トイレの床だったが洗面台に近い箇所、衛生面については気にする事は無いと思う。恐らくは、の話だが。

「…どういう、事なの?」
「…………」
「…僕はどういう事だって聞いてるんだよ!」
「…だって、シゼルニー」

どんな理由で親友を背後から撃つ必要が有るのか。自分自身でも確かに辛辣だと思える程に、冷淡で無機質な声で答えを返していた。自分は何と酷い人間だ。今更だとも思えるので仕方無いとも思い浮かんでは居る。
ばさっ、と音を立てて遂にユグローフの身体そのものが床に崩れ落ちた。殆ど崩壊しかけた中でも、瞳だけは自分達を極めて穏やかな色のまま顛末を見ている。咎める力も今は持って居ないのだろう。

「…今更ふざけないでよ!君は父さんに託されたんだ!なのに、それを全部無駄にしたんだ!お陰で無駄死にだよ!何で、何でなんだよ…僕程でも無いけど、父さんは君達より優れてるんだよ!それを…」
「…シゼル…ニー…それが問題だ…別に私達は……彼等より優れてなんか居ない…」

胸倉を掴まれるが、自分を殺したとして何も変わらない。後方から聞こえて来るユーグロフの声は、今にも消えてしまいそうな掠れてか細くか弱い物だった。

「…私が創り上げた、そして、お前が引用した方法は…確かに人体の不定形化…寿命の増量、全細胞は変質し、肉体的な能力は倍増する…しかし……精神的な面は、何も変わらない」
「……嘘だろ…何で今更言うんだよそんな事を…嘘だ!僕はそんな事は無い!完璧だ!僕も父さんも…」
「…高揚感…絶対的な自分への自身…其処から起こる傲慢…他を見下す行為…全て、肉体の変化に精神が得意になっただけ…私が気付いたのは、四年前だ…しかし、お前は」

基本的に、シゼルニーは自分達を見下して居た理由はその身体に有る。他人より一つの事が早く出来たからとやたら威張る子供と同じだった。ずっと。だから、考えに硬さがあって傲慢で、頭の中で勝って当然だと思ってる自分と、実際負けた自分との差に怒り、そして結果が今だ。
気付いたとしても今更。自分も絡んでは居るが最悪の結果か、それに近しい事態になって居るのは間違い無い。トキザは何も言わず何もする事無く穏やかに眺めて居る。ユーグロフの声もだいぶ不明瞭になって来た。

「……感情が無くなると思ってたよ…母さんと別れた時に…もう父さんは居ないって…だから、僕は…」
「……今では…し…無いと……思って……」
「…今更だよ…本当に今更だよ…最悪…なのに…ぼくは父さんをっ……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

崩れ落ちるシゼルニーの前には、塵芥に塗れた服だけが残っていた。

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あきゅろす。
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