[携帯モード] [URL送信]
親は向かう、子は向き合う
勝ち負けに関してと、自分がこの個室から出られるかどうかは別の話になる。シゼルニーの表情こそ俯いて見えないが身体は小刻みに震えて居た。怒っているのは第一に自分に負けたシゼルニー自身、第二には自分の事だ。
立ち上がってからもどいたりする気配は無い。しかし、勝負に勝ったのは自分で、前持って約束して居たのだから仕方無い。シゼルニー、また自分の心を読んでいるのならどいて自分を元に戻す方が、

「煩いっ!」

怒りの篭った短い叫びに、自分の顔に向かって飛んで来る何か。どうにか避けつつ、銃を抜き頭に向かって構える。当然零距離で撃っても彼に当たったりはしないだろう。
さっきまで駒を握って居た手が、刃の様に尖って後方の壁を貫いて居た。身体の形を自由に変えられるらしい。勢いに合わせてパーカーが捲れ上がり明らかに怒りの表情、撃ったとしても確実に通りはしない。

「シゼルニー、悔しいのは解るけど、君は負けた、僕は勝った。こうやって無理を通すのは1番やってはいけない行為だ」
「…だから何?僕は君よりずっと出来る事が多いんだ。君は掌大の球体になれる?腕を刃物にして鉱石を切断出来る?国王を狂わせて自爆させる事は?僕には出来るんだ、このぐらい…君一人居なくなったって、世界にとっては、そして僕にとってもどうでも良い事なんだよ」
「……それについては否定しにくいけど。その時はその時でまたややこしい事になると思うよ」

話をしながら、刃物状に変化した腕が自分の首筋に当てられるのを感じた。顔と同系統の鈍い灰色をしている腕は金属質では無く、確かに体温を感じる。それでいて鋭さは刃物と変わらない。
言葉を聞いても、目の色は全く変わらない。先程自分を負かした相手に対しても「黙れよ」、何も興味が無い物を見ている様な極めて無機質な瞳で「しょうがないよ、実際そうなんだから」。

「それに、例え僕が君を殺したのがばれたとしても…僕だったら君の友達も、君の仲間も、君の親も何も気にせずに殺せるよ。だから心配は要らない」
「…シゼルニー、相変わらず君は、考えが硬くなった」
「それが最期の言葉か、さよなら、サ」

個室が開かれ、背後からシゼルニーを掴む手も同じく人間とは異なる奇特な物。その顔立ちもパーカーを好む服装も猫背も似通ったものであって。その表情は何も無い、自分に近い様な無表情だろうか。
渾身の拳がシゼルニーの後頭部に突き刺さろうとして、当たらない。と、思いきや自分の首に触れていた腕を弾いて居た。気を取られた隙に、トイレの個室から抜け出す事に成功、彼の背後に回る。

「…一番に、君の父親だ」
「…父さんかぁ…今の僕には、何も感じないかな」

先程までピアノを弾いて居たユグローフ=アディストンは、無言のまま実の息子に、シゼルニーに対峙する。今となっては何方も変わってしまった。ユーグロフは、二重に。

[*バック][ネクスト#]

14/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!