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黒は揺れる、白は均す
一対一のボードゲームはあちこちで発展している。特に自分にとっては体力をあまり使わずに誰かと勝負して決着を着けられるという点が中々に素晴らしい物だと思っている。
今の状況については、後回しにしたとして何時頃回収出来るだろうか。一人用のトイレに座らせられて直立不動なシゼルニーとチェス盤を隔てて対峙しているのは。早速駒が動かされる。

「集中した方が良いよ、早くしないと…僕に全部読まれちゃうかも」
「……トキザには負けてる?」

盤に顔を近付け良く見てみると過去に何回か使われた痕跡があった。各駒も同じ様に。先程自分も知ったばかりの情報だったが、彼が積極的にゲームに誘うなんて今は有り得ない。
性格と起こるであろう事から察するにトキザとシゼルニーが再会した。隣にはハスケイヴも居たかもしれないが。しかし今のままだとしたらシゼルニーは断ったであろう。
そこで引き下がらずに提案して、何かしら簡単なゲームで勝ったら仲間になる事を約束し、負けてその後何戦かしても負け続けて現在に至って居る。自分と同じやり方で勝負しようとしたのは、例えトキザに負けても自分になら勝てると中にあるプライドのせい。あくまで自分の想像だが、どうだろうか。

「…何もかも、当たってるよ。君の心を読むのが腹立たしくなって来た…でも、これが有る限り負けは」
「…そう、トキザとやった時も思って居たけど、実際負けている。何でか、今の君には多分解らない」

読み出した最善の手を打つ。シゼルニーも盤に向かって駒を叩き付ける様に強く音を鳴らしながら更に返し、自分もまた同じく。どうせ手の内を読まれて居るから、では無くそれを逆に利用する。例えば、思考を並列化する。何を優先するかだとかは無い。
 少しシゼルニーは迷っているのか、一手に使う時間が明らかに伸びる。今は心を読む事を止めるかどうか考えて居るのか。自分はあくまで冷静に、次の手を複数同時に考える。そして特に考えず打つ。間隔を与えない。

「…何で君は、トキザと同じみたいに……っ…」
「…これで、間違っては居ない様だね。特に決めては無いけど、あまり時間を使うのも駄目」
「分かってるよ…く…もう君の考えを読んだりしない。余計疲れる…くそ、最初から分かってたのに…何で読んだんだ僕は…」

頭に登った血は決してこういった勝負で良い結果は残さないのが常だ。ひび割れた様な黒色の殻に全身が包まれて居るシゼルニーにしても。明らかにミスをして、それに気付いてまた怒る。
シゼルニーは硬くなり過ぎて居た。肉体的にも精神的にも、進化を遂げた時から、自分達一般的な人に対して絶対的に上だと思い続けて居た。実際その通りだが、トキザは悪知恵が働く。
虫は空を飛べるが人は飛べない、同じくシゼルニーには力では勝てないがチェスでは勝てる。初めての敗北、そこから抜け出せず圧倒的な自信を秘めて居たのに負けた自分に嫌悪感を抱くだけ。

「…僕の勝ちだ、シゼルニー。それじゃあ、戻るから」
「…………」

だからこそ、自分も頭を回転させて挑んだ。多少の小細工もした。それがこの結果である。

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あきゅろす。
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