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上役は叫ぶ、親友は渡す
何をしたかと言えばごく単純な事だ。赤み掛かった茶の毛色をした牛人を前にしても特に何の意味も無い、誰にも阻害されず癖とも取れる様な当たり障り無い行為。
単に利き手をトキザ自身の口の前に伸ばして、爪を噛んだ。それだけであるのだが、これから何をするのかは十二分に理解が出来る。表情自体は非常に穏やかなものだったのだが。

「っふっ!」

べりっと音を立てながら、無理矢理爪を噛んだまま手を思い切り前に向かって突き出す。小指以外の爪は当然歯でしっかりと噛み締めて固定されたまま。必然的にどうなるか。
と言っても答えは簡単、普段は指の肉にきっちりと貼り付いて指先を守る役割を持つ爪が、四枚纏めて剥がされてしまったのである。実際は自ら意図的に剥がした。自分の目の前で、親友のトキザが。
流石に痛かったのか。目元には涙が浮かんでいて身体は小刻みに震えて居るがそれでも彼はやってのけたのである。牛人が恐ろしいものを見た表情を浮かべているが。

「…これで、何とか…ならないかな?」
「…ば、馬鹿野郎っ!お前何やってっこの可愛い餓鬼は何だぁっ!?」
「…そうだね、後二枚良いかな?」「合点!」「おいっ!」

飲み込みが早くて助かる。トキザは早速、もう片方の指を二本、親指と小指の爪を咥え、同じ様に音を立てながら剥がしてしまった。細かく激しく震える手先で合計六枚の爪が自分に手渡される。先に見えるのは爪じゃなく肉色だった。
牛人は驚いて何も言えない様な。やたらと身体を露出してるかと思っていたら腰にタオルを巻き付けただけの服装。フーガさんを思い浮かべたが初対面の彼と此処とは不釣り合いだとしか思えない。

「…トキザ、指先を怪我してるけど…何があったの?」
「あぁ、ちょろっと無理しちゃってね…誰か傷を治せる相手は居ないかなー…あ!隊長がこんな所に!都合良く!」
「なっ、何なんだよお前等ぁぁ!?」

きっちりと以前の事は水に流して過去の事として済ませる。未だにこういう時に細かな習慣の違いが析出してしまう。所長達に話す訳にも行かず、此処はタオル一枚ながら彼に頼むしか無い様だった。



「本っ当に申し訳な「いえ、もう済んだ事ですから」

勢いよく頭を下げる牛人を両手で制する。やはり自分達とは幾らか異なるらしい。トキザの指には消毒薬が浴びけ掛けられ包帯が巻き付けられている。終わった事として楽し気に出て行こうとしたが止められていた。

「…にしても何て作戦立ててやがるんだよお前ぇぇぇ!通りで修理代請求があれだけの額になる筈だよ!」
「でも歴史的発見だ!って大いに取り沙汰されて発見者として取材代儲かった上売名にも繋がっちゃったから万事休すだと思いますけど?」
「ぐっ…その通りだ畜生!」

悔しがる牛人、相変わらずこんな系統に限っては非常に上手くやっているらしい。ハスケイヴも居る為力は数倍、牛人の心労は数十倍と言った所だろうか。
爪は剥がされたてだが、何時もの様に笑っていた。

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