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親は語る、親は塞ぐ
出合い頭に全力の拳を打ち込もうとしているのは自分の母親で。全力で打ち込まれて行ったのは自分の父親で。仲睦まじいという言葉の真逆の位置に存在している仲だろう。
皆は手を出せなかった。自分の夫婦に関わる話、他人にはあまり手出しして貰いたくは無い、建前上はそう言えるが実際は取り付けないからだ。母さんも良いパンチを放つようになった。
大きな動作は無く、隙が少ない上で真っ直ぐ鋭く父さんの側頭部付近を全力の拳で撃ち抜く軌道だ。夫婦喧嘩でやっていいレベルを超えているのは確かだ。

「おるるぁぁぁぁぁっ!」
「…あぁ、スージー。久し振りで」

会話も噛み合ってない。ここまで険悪な夫婦仲になっていたとは。ほんの数年ばかり蒸発して出会わず仕舞いだっただけなのに。いや、それが一番重要な問題だ。
カウンター席に座ったまま、片手には飲みかけのお茶入りカップを持ったまま椅子から立ち上がり拳を避ける。結構距離がある筈なのに風圧が自分の所まで届いてしまった。
避けたと判断した途端に素早く対生を持ち直し、出入り口の前に飛び込もうとする父さんへ追撃の蹴りが繰り出される。両足をきっちりと揃えた全身ごと相手にぶつける渾身の飛び蹴りだ。やはり身内に使う技じゃない。

「…ですね」
「あっ……」

しかし、父さんは違って居た。今度は自分に向かって凶悪な勢いと威力を持って飛んで来た両足を躱しはした。そのまま流れるままに吹っ飛んでくる腰を掴み、身体を反転。飛び蹴りから始まったとは思えない様に優しく母さんを抱き上げた形に。
何とちぐはぐな光景だろうか。父親が母親を抱き上げるのはまあ良いとして、身長は母さんの方が高い。体格も都合上母さんの方が良い方だ、父さんが細過ぎるのもあるが。体重に至ってはおおよそ四倍の差がある。倫理的に正しいが見た目的には随分ちぐはぐに。

「…何して何やってやがってたのよこの馬鹿っ!」

当然、その程度で今の今まで放置されていた母さんの怒りが収まる筈も無く。抱き上げられながらも全力の右膝が側頭部に突き刺さったのであった。




「ついこの前に友達同士でご飯食べに行ったり、問題は今の所起こしてないから…うん、多分最低限にはやれていると思ってる」
「…頭、どうした…?」
「見た目はともかく上手くやれてるみたいで良かったわ…貴方とは違ってね?」
「ちょっとプライベートな事でヘマをしてね…」

こうして家族で話すのも久し振り、というよりも数年振りだ。ナイシャンさんが頭の毛を刈り上げられていたのが目を引くが。綺麗なモヒカンになってしまっている。
肝心なのはあの事をまだ母さんには話してない。言っただけでは信じる筈はなく実際明かしてみせたら悲しむと思う。今は密かに胸の中に収める事にした。

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