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語り手は明かす、聞き手は惑う
実の父親ながら何て突飛で、到底信じられない話で、しかも前に自分が知っている話を切り出したのだろう。話す前までは人並み以上の興味を抱いていた様に見えていたのだが引き気味である。
いきなり話されても信じ難い内容を平然と話すのは自分が知る父親らしいと言えば父親らしい。突飛な事を淡々と述べるのは確かに。最近聞いてないから薄々イセラさんの嘘だと思っていたが。

「…本当ですか?」
「本当です」
「…因みに何処から聞きましたか?」
「私自ら調べました。以前出て来た蟲型の魔物も、あれは天使…と言いますか、この空間とは少し上の位置に存在する空間の住民の仕業です」
「…本当ですか?」
「本当です」

どんどん父親の心象が悪くなって来るのを感じる。人懐っこそうな微笑みを浮かべながら平然と話す様子は以前見覚えが有る頃の父親で違いない。駄目な方向性が一切変わらない所だとか。
ニッグさんの目の色が随分と冷たい物に。アケミチさんの目の色は死人と殆ど変わらない。昨日から持ち帰る事になったケーキはまだ残っているのだろう。信じ難い以前に悪質な宗教勧誘に付き合わされた様な目の色で。

「…仲間の身内という事で言いにくいのですが、宗教の勧誘は受け付けていませんよ」
「信じられないと思いますけど、案外本当なんですよ。今彼等が必要としているのは切っ掛けです…例えば…」

内容はともかく、理解は出来る。父さんが言うには空間単位で考え、天使の居る空間、要するに天界が此方の空間に向かって戦闘を仕掛けたい、その為の切っ掛けを欲しがっているらしい。
いきなり敵地に飛び込んで戦争すると言ったとしても其処に有るのは総じての反撃。以前此処に来た天使としても貴重なものは保護をしておきたいのだろう。となれば此方側が基本保護してあったりそういったものを丸々手に入れたい。
必要なのはやはり、此方側で味方になってくれる相手。宗教を絡ませたり友好を結んだりとそうすれば何とでもなる。どう考えてもそっち方面の話が広がるが目を瞑る。どうやって支援を求めるか、世界中が厄介だと思ってる物を無償で潰してしまえば良い。おあつらえの国家があった。この時代にも関わらず奴隷制が未だ成り立っている国が。治安も悪い、武力で押さえ付けたがる、数値上では経済的に成功している国。此処を潰してしまえば協力する国が出て来る可能性もある、筈だったが。

「…という訳だったのですが、市民の義勇兵と幾らかの外部からの協力者によりクーデターが成功、奴隷制度は解放され今現在も政府が管理して居た麻薬畑が焼き払われてるとの事。という訳で大きめの切っ掛けは今の所消え失せてしまいました」
「…………」

堂々と答えたが天使が来るという明確な証拠は無くなっている訳で有る。会わない内に何時の間にかここまで父親と噛み合わなくなってしまったのだろうか。

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あきゅろす。
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