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父親は語る、覗き屋は呻く
非常に唐突な事ながら、父親と再会出来てしまった。元々世界中をぶらついている人間だから確率は低いが出会える可能性は無くは無い。しかしいざ出会ってみると、やはり自分の中では信じられない。
あの時からもう会えない気が勝手ながら出来上がっていたのだから。そして母さんと共に二人で生きていく予定だったが、諸事情により自分からそれを振り払って。生まれた故郷の町から随分離れて、それ程までに昔はふらついていて。

「…美味しいですよ」
「そうですか?それは良かったです…」

劇的な変化といえば最早自分と父さんとは全く似ているとは言えなくなった。昔は例え目の前で目の中に入ったなら失明確実の劇薬が入ったビーカーが爆散したとて無表情を保っていたのに今はポジと同じく笑っている。別れた時から切ってないのか髪が伸びている。
身長や細身な外見は全く変わらない。伸ばした髪を後ろで一纏めにしており、所謂ポニーテールと言う髪型だろうか。要するに自分の父親だと分かって居ながら、見た目だけは女性にしか見えない。声色も場合によっては聞き間違われるだろう。
所長がやたら居辛そうにしているのもその為だろう。出会い頭に笑顔で完璧な挨拶を見せてくれたのだ、皆も何処か余所余所しい様に思える。アケミチさんは岩塩の塊を舐め回しながら唸っているが。

「…その、貴方がサイの父親ですよね?」
「そうですよ。最近不思議な事に偶に母親じゃないのかって言われたりしますけどねぇ…」
「…………」

母親と聞いて母さんの事を思い出したのだろう、所長が身体を震わせ他の皆も俯いてしまった。本当になんでだろうな、とレザラクさんがヤクトさんに小さく呟いたのが口元の動きで読める。
こんな時には例によって副所長が尋ね、以前とは比べ物にならない程に表情を変えながら答えている。本当に何があったのだろう。これが今になって出て来た弊害の一つだろうか。

「…まあ、それはそれとしまして。問題は貴方が此処に来てから次に言った事です」
「…まぁ、急過ぎるとは思ってましたが、貴方達は確かな強さを持っています。そこの所長さんなんか特に…耳に入れて置いても悪くない事かと」

所長が僅かに尻尾を揺らす。確かに此処に母さんに出会わせてはまずいからとあの日に預けられ、皆に顔を合わせてからいきなりあんな事を言ったとなると。朝から。お陰で自分の父親に違いないと納得したらしい者も居る様だが。

「…本当の事ですよね?」
「ええ、本当の事です、近い内に起こり得る可能性が高い物です…所謂天使が、この世界に攻め込んでくるのです」

[ネクスト#]

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あきゅろす。
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