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ぼやけた眠気に答えと暖気
答えは返って来ない。答える前に眠ってしまった訳でないと背中越しにはっきりと感じている。もぞもぞと所長とは別の、自分の意思で動いているのが分かって。
完全に眠っている筈の所長の手が自分の身体をロッシュごと強く抱き寄せて来た。背中の一部分が生暖かい、長いマズルが、その鼻先が押し付けられている様だ。匂いを嗅がれて、暫くするとロッシュの居る辺りでふん、と鼻先が鳴らされた。

「……今は、サイと同じかな。たまたまセグに抱かれてるだけで他は何も無いよ」
「…今の僕みたいに、たまたま所長に連れられてベッドに無理矢理寝かされているという事かな」
「うん。そういう仲じゃ無いからね、そういう仲じゃ」
「…なんで所長の事をセグと名前で呼ぶの?」

やはり誤魔化して来た。なので次には更に突き詰めた質問をしてみる。どれだけ自分を誤魔化せるか気になって来た。打ち明けなくても背後から聞こえる安らかな寝息に自分も釣られる。眠気がかなり強くなって。
質問してから、答えるまでには時間が掛かる。声色から判断するともうすぐ眠ってしまいそうな程に意識は蕩けてしまっているのだろう。口を滑らせるのか、それとも自分が答えを聞く前に眠ってしまうのか。

「……ヤクトも、所長じゃなくて呼び捨てで呼ぶよ…僕達は案外、便利屋の初期に居たから…副所長とセグと、フーガと……僕、君が思ってるよりずーっと先輩なんだよ?」
「……副所長は…何で…」
「硬い、から…かな……」

言葉を一文字発する度に眠気が強くなっているらしい。ロッシュと自分とで数分間の内に大分呂律が回らなくなって来た様な感覚が。昔の便利屋が浮かぶ。変わらない振る舞いの所長に背が今よりも少し小さいロッシュ、巨大な副所長とだるそうにしているヤクトさん、そして服装と露出度は変わらないフーガさん。何故だろうか。
浮遊感が湧き上がる。既に意識は半分程夢の世界に飛び立っているらしい。指を動かそうとしても動かせない。背中合わせのロッシュも動かなくなってきた。既に寝入ってしまったのか。

「…………」

他人と共に眠るだけでこれだけ暖かいとは、これだけ安らかに眠れるとは思わなかった。ロッシュ達が意図的に睡眠薬でも振り撒いているのでは無いのか。そこまで考えてしまう程に安らかな眠りが全身に回る。
ロッシュと所長がどんな仲なのかは、結局具体的な事は何も分かりはしなかったが今はそれでも構わない。そもそも予想した通りの仲に決まっているから。恐らく二人が常日頃感じている温もりを受けながら、素直に眠気に飲まれた。

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あきゅろす。
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