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凹む叫びに声と棘
自分達の出来る範囲では速やかに済ませて証拠も見付かって覗いていた以外は穏便に依頼をこなした筈である。しかしながら便利屋側の問題はどう解決すれば良いのだろうか。

「所長、そろそろ機嫌を治しなさい」
「…やだ」
「セーグー…本当に何もしてないからさ…ねぇ…」

翌日の朝、報酬を貰って戻って来た自分達を見た途端に、所長は角で膝を抱えて丸くなってしまった。雰囲気的にはとてつもない悲壮感が全身から滲み出ている。良くやった、と掠れた声で褒めて貰えたが実際こんなものだろう。
戻ってから数時間経った今でも姿勢を保ったまま拗ねている。副所長とロッシュ本人につつき回されているが変わらず機嫌が直る様子は無い。ヤクトさんの膝上で座っているが、皆も心配そうな視線から大分愛想が尽きている。

「ニッグ、無理矢理で良いですからこの所長を運んでやりなさい」
「はいはい、よいっ痛ぅっ駄目だこの馬鹿所長が」
「セグは馬鹿じゃないっ!」

蜥蜴人のニッグさんが運ぼうとしてみれば、丸まった身体を守る様に鉄製の棘が伸ばされた手に絡み付こうとして来た。鱗を破っては居ないが失言にロッシュの蹴りが飛ぶ。
何をどうすれば良いのかと言えば、少しだけロッシュが自分の身を磨り減らす覚悟で約束か何かを取り付ければ良いと思うが、関係を隠して居るのだから中々に難しい。
そろそろ飽きて副所長も放置しようと言い出すかと思ったその時、響く通信機の呼び出し音。フーガさんが取って幾つか言葉を返しては、

「所長、憲兵からですよ」
「………ん」

言葉を聞けば実にだるそうに姿勢を解いて通話器を手に取る。その隙に副所長とロッシュが隅を抑えて元には戻れない様に。その様子を見て残念そうにしながら話を聞いて、

「……嘘だ」
『……!……!』
「…嘘」
『嘘じゃ、ないんだぁぁぁぁっ!』

通話器越しにもはっきりと聞こえた、実にはきはきとした聞き取り易い声。以前聞いた事があるかと思えばあの彼が放っているのだろう。所長は痺れたのか少しの間耳を抑えていた。

「…あぁ…うん…分かった…正式な依頼で良いのか…分かった…うん…了解…」
「げえ、憲兵側からの依頼か畜生」

レザラクさんが小さく呟く。あくまで本で読んだ知識だが憲兵から出された依頼に於いては便利屋はその通り便利に、格安の報酬で憲兵側が匙を投げた厄介事をこなそうとこき使われてしまうらしい。
そんな内容の本ばかりあるだけだから実際どうなのかは分からないが、身構えておく必要があると。副所長にも尋ねてみたが報酬は安いがパイプが築けたので問題ないとの事。
明らかに緊急で、自分も巻き込まれそうで、もしかしたら彼らとの約束はまた先延ばしになりそうだ。そろそろ奢る回数が一回増えてしまう。

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