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語る才能に背と睡眠
「…………」

何も返事は来ない。きっと自分の話を噛み砕いて飲み込んでいるのだろう。以前母親に言って見たが同じく暫く動きを固まらせていた。それ程に今まで父親は何もしなかったから。

「……嘘でしょ?」
「母さんに言ってみたらそう答えた」

あの時驚いて居たのは母さんだけというのもおかしな話だと今では思う。実際に父親が造った時計が動いているのを見て落ち着いたが、リフノー達は気にせず笑っていた。知っていた様に。
父親自体は平然と部品磨きの給料を請求していた。時給制でなく時間内のパーツ一個につき幾らかと歩合制だったので実際早々と多量に儲けていて。人生初めての給金を、簡単にポケットの中に収めてしまっていた。後々入れっぱなしのまま洗濯して大変な事になる。

『やぁ、一体どうしたらこんな大事が出来ちゃったのかな?』
『出来ちゃったとは少し間違ってます。並べてあったものを揃えたら出来上がっただけです』
『やぁやぁ、どうやら君は見たて通りだ、時計職人には向いてないみたいだねぇ、今度から君の代わりに蜘蛛にでも頼む事にしよう』

その日から部品磨きを頼まれる事は無くなった。こう言った事が他人に色々頼まれる度にやらかしてしまう父親だったと誰が信じるだろうか。が、そこからは話す必要が無いと思って言わなかった。
それから少しだけ母親が何も言わなくなり、自分と父親が緩やかに一緒に過ごす時間が明らかに増えた様な気がする。あくまで気がするだけだが思い返すと視界の端や耳にした音に確かに父親の片鱗が残って居るのだ。

「…それはそれで、寂しいと思うけど僕よりもましかな?」
「ましかどうかは実際に住んで見ないと解らないけど、今は試すのは難しいかな……」

あっごめん、と小さく言葉を漏らしたがそこまでの事は気にする必要は無い。食事をし忘れたと言い張って三日飲まず食わずで過ごして平然として居る父親の事だ。その辺りでは観葉植物の方が似ている。
再び無言で、暫くすると自分の背中に暖かい感触が。本格的に眠り込んでしまったのか小さく寝息が聞こえる。随分と寝付きが良い。自分もこの先輩に倣うべきなのだろう。眼を閉じて少し呼吸を整える。何も考えはしない。次第に睡魔が襲って来る。
そういえば、こんな風に自分が眠ろうとしていた時に、父親は何時も隣に身体を寄り添わせては居なかった。代わりに布団を良く身体に掛けられた様に思える。自分の臀部に当たっているのは尻尾だろうか。

「…………」

父親が居なくなって、自分も母さんの元から蒸発したのが数年前。あの時は、今でも全く躊躇いも後悔も感じはしてない。つくづく自分は、父親似だ。

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あきゅろす。
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