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答える仕事に虫と友
お互い向き合う程の話では無いのは確かな事だ。え、と驚いた声が背面から聞こえたとしても。自分は嘘を言って居ない。家族の事で嘘を吐く必要も何処にも存在しないのだから。

「基本は『図書館』で本を読んでた。お金もあまり使わなかったけど自分が気が付いた時にはやっぱり働いてなかったよ。家でずっと過ごしてた」
「…それ、相当酷い家庭じゃなかった?僕と同じみたいに」
「父さんには友達が居たし母さんは働いてたから、目に見えての苦労は…してなかった」

嘘は言ってない。ここまでは全てが真実だ。家の中で椅子に座り本を読んでいる父親。それを見て怒鳴り散らしながら自分を抱いて揺する母さんに、全くの無言を保つ自分。
こんなに喋らないなんて間違い無く貴方に似たのね、と皮肉混じりに呟いて、不思議な物ですねと父親は呟いた。例え家族であっても敬語を使うのはそういうものだからと知るのはもっと後の事だ。解決になってない気もするが。

「…あの性格からして、お母さん大変だったでしょ?」
「僕の首が据わる頃には本気で怒ってた様に見えてた…働かないと流石にブチ切れるわよこの甲斐性無しがって」
「……ふふ、サイとは全く似てないね」
「そんな事無いよ」

自分が床を這いつくばって居た時から少し成長して、聞き取った言葉を理解して自分の意見を話せる、要は言葉を発するより成長した時の事。業を煮やした母さんがわざわざ父の為に仕事を取って来た。
内容は部品磨き。リフノーからの頼みだったから恐らくは彼から推薦して来たのだろう。あまり積極的では無かったがそれでも彼は笑って居た。そしてこの時が自分とトキザが出会った日だ。
記憶の残る限りでは明らかにポジな明るい笑顔を浮かべて、自分の目の前に掌に乗せたまだ生きている甲虫を差し出した。自分は観察してそれは毒虫で噛まれたら腫れるよ、と教えてやったら早速外に逃がしていて。

『君が読書中に発揮する集中力さえあれば十分ポッシブルッ!さぁ、サラリーゲッツにレッツトライ!』
『…………』

トキザが三点等立に失敗している中、早々と磨き上げた時計の部品を目の前にして佇む父親。歯車やら何やらが並んで居るがこの時自分は完成図は見えなかった。リフノーと母さんは磨き終わるのを待って世間話をしていて、
そんな中急に父親の手が、動いた。無数の部品を勝手に組み合わせては、恐らくは頭の中に既に浮かび上がっていた完成図通りに組み立てて行く。それが当然だと言う様に。或いは父親自体が時計を設計した様に淀み無い動きで。
気が付くとそこには、時計が出来ていた。リフノーが設計して父親が勝手に造り上げたそれは、平然と時を刻んでいた。

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あきゅろす。
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