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明ける褒美と過去と水
事の顛末は知る必要は無い。向こう側にどこがどうなったかだとか尋ねても絶対答えてはくれないだろうから。報酬が届いたという事は恐らくは白黒はっきり付けられた、それだけだ。
早期解決してくれたとして報酬は少し多くてヴィンテージ物のワインも二本添えられて来た。所長は喜ぶが副所長に止められ結局フーガさんが料理に使う光景が思い浮かんで。
シャワーを浴びて汚れと身体に溜まった疲れを洗い流す。時間的に今日中に帰るか一日泊まるか迷う所だ、ロッシュと話し合って決める事にする。と、そこで何故か開かれる扉。一人用の狭いシャワールームなのに。

「…………」
「…ロッシュ、一体何?僕を襲う気でも」
「…ちょっと、昔を思い出しちゃって…うざったく思ってもいいから、聞いて欲しい…ん…だけど…」
「…せめてタオルぐらいは巻かせてくれないかな」

言いながらタオルを腰に巻き付けると、背中にぴたりと乾いた柔らかな手の感触が伝わる。それなりに冷たいが耐えられは出来て。鏡で覗き込んでみたら、彼も同じくタオルだけ巻いた姿だった。

「…僕も、あんな感じの屋敷に最初は住んでたんだ」

自分の頭に付着していた水気が完全に乾いてしまうまで、ロッシュの話は続いた。最初は貴族出身で裕福な暮らしに人並みの善意を持っての事前活動、全く苦労を知らない身だったらしい。
だがそんな生活が長く続いていれば今便利屋になんか入っていたりはしない。父親には浪費癖が出て来ては全く訳の分からない物ばかりで広かった家が溢れて、そのせいで母親が酒に溺れてしまった。
その様な両親の状態でちょうど祖父の遺産分配の話など進む筈も無く。呆気無く没落する中で拳銃で狩りをして気を紛らわし、そこを所長に拾われたとの事である。

「拳銃は父さんのを勝手に使ってた。弾薬は母さんの封を切ってない酒を売って買った…その時父さんは母さんの部屋に盗聴器を仕掛けてたし、母さんは父さんの私物を売ってお金に替えてた。だから良いかなって思ってたけど、今考えるとどれもこれも駄目な事だよね」
「前に資産家の…一部を除いて立派な家に居た時は大丈夫だったのは?」
「あそこは普通だったから。ちゃんと一部を色々やって叱ってたじゃない…僕は無視された。家の中で練習で撃っても、使用人は驚いたけど…二人とも全く無視されたんだ…」

知らぬ間に自分の肩がきつく掴まれて居た。爪が立てられているのには気付かないらしいが、そのまま受け止めた。痛い事は痛いが、耐えられる。

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