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倒れる家族に父と一撃
凡そ十分程経った頃であろうか、きっと手早く素早く済ませて来たのだろう、蓋が内側から開かれた。天辺辺りに接着剤らしき何かが付いた帽子を目深に被った頭から突き出て来る。数歩下がった自分達には気付かない様で。
何をするのかぐらいは分かる。顔の次には腕が出て、銅に続いて脚が出て来て半ば無理矢理這い出て来た相手に自分から駆け寄る。わざと足音を立ててみれば驚いた様に振り返って。

「すいません、此処で一体何をしてるんですか」
「…いや、これはその」

何気無い質問と自分自身が姿を見せた所で気を逸らす、その内に背後のロッシュが無言で跳んだ。両手には何時もの様に銃型の魔力射出機が握られて居て。完全に無防備な相手の背後に一息で近寄る。
的確な弱点に的確な勢いで殴れさえすれば自分だってロッシュだって人を気絶させる事ぐらいは出来る。持ち手を使って叩き付ける様に後頭部を殴りさえすれば。
加えて自分の方も首筋に麻酔銃を撃ち込んだなら間違い無く眠るか気絶かどちらかに見舞われる。呆気に取られた表情を見ながらロッシュの一撃が無慈悲に炸裂して。被っていた帽子が吹っ飛び垂れた長めの両耳が揺れる。
自分の目の前でぐるりと眼球が裏返りだらしなく舌を垂らしながら地面に倒れ伏してしまった。少し待って動かないのを確認してからロッシュより先に跪き麻酔弾を抜いておく。
瞼を開いて確認してみる。完全に伸び切っているがどちらのせいなのかは有耶無耶にしておいて、今度は二人して彼を持ち上げ引き渡さなければいけない。かなり疲れるがそういう条件になっている。

「よい、しょっ…と…」
「………っ、と…」

自分達の様な体型では二人掛かりでもきつい。相手方も大きいとは言えない体格だが、それでも大人の男一人分で重さも十分ある。しかも自分達より明らかに大きいのだから。
相当引き摺っているがそれでもどうにかこうにか運ぶ。裏口から入り込んで依頼人である主人の待つ書斎へ向かった。使用人には話を通してあるからどれだけの視線を向けられようと気にはしない。
書斎に辿り着いて扉を開けば、全てを理解したのか満面の笑みを浮かべながら自分達の肩が抱かれた。厳格そうに分厚い本に目を通しているかと思えば恋愛小説を読んでいて。ついでに倒れた彼の身体を踏み付けるのを忘れていない。

「よぉぉぉくやってくれたぁっ!こんな早さで…写真はどうなった?」
「この中にしっかりと入ってます」
「そうかっ!此奴目がウチの娘に手を出したという証拠は!」
「通気口の中に仕掛けをしておきました、体毛か何か付着してるかもしれません」
「よぉぉぉしっ!それなら」「お父様ぁぁ!何やってくれちゃってんのよ」「はっ!?」

監視対象、つまりは彼女が突然部屋の中に飛び込んで来た。この先相当に厄介な事になってしまうのだろう。それに家族間の問題は他人が口を挟んでも無駄に決まっている。
報酬は此方にと借りていた部屋の住所を書いた紙を置いて速やかに退散した。

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