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掛ける偽装に糊と嘘
通風孔から来る様々な匂いも神経をより擦り減らしてしまうと分かってしまった。こんな依頼が無ければ知る必要すら無かった知識だろう。調理場からは肉やら野菜やらを料理する匂い。背後から吹き付けてくる涼し気な風。
腕を汚さない様に厚着をして居たがまさかの巧妙である。時間は体内時計から察するにもう深夜、常人ならば眠って居る筈で、依頼主が一番気掛かりらしい時間帯だ。とは言っても以前として変化無し。
部屋の構造からするにこの通風口と出入り口用の扉、そして窓しか無い。自分達が見張って居る限りは壁を通り抜けられる様な相手しか部屋の中に入れはしない。それが自分には気掛かりだ。簡単に入れるとしたら、この通風口からしか不可能である。

「…………」

簡単にロッシュに尋ねてみた。狭い通風口でも頭か耳を擦ったりはしないか、と。返って来た答えはそんな事は無いと。確かにあの中は狭くて入れる人の体格は限られるが頭は擦らなかったと。
ロッシュが擦らないなら自分も同じく。それどころか狭い事には狭いが身体を回転させうつ伏せから仰向けに出来る程だ。それでも天辺に頭は擦らない、それなら壁は汚れて居る筈だが指で撫でてみてもあまり汚れは付着しない。
それどころか依頼開始時でも服にあまり汚れが付かなかった。試しに寄り道してみると大いに汚れた。彼女の部屋に通じる通風口だけが汚れて居ない訳だ。不思議な事も有るものだ。
例えばこの様に天辺に接着剤を塗り付けたとしても自分とロッシュ二人しか此処を通らないなら何も無いまま固まる。完全に乾くまで数日を要し、指に付いたら諦めるしかないと謳われる超強力な物でも。
後はロッシュを説得して半日程度空きを作れば良いが、不機嫌な時に自分ではなく後輩の勝手な意見は受け入れてはくれなさそうなので天井に頭をぶつけたから届かなくても気を付けて欲しいとだけ言っておいた。

「……また何かしようとしたんでしょ?何をしたの?」
「くしゃみを堪えようとしたら音は抑えられたけど身体の方が跳ねて…」
「…あったかいものを食べて…少しの時間ぐらいなら替わってあげても」
「何とかするから…見られるとまずい、急いで…」

無理矢理短く済ませてロッシュの前でしゃがみ込む。が、自分に体重が預けられはしなかった。見上げてみると彼の身体が全力で跳び上がり通風口の縁にしがみ付いて居る光景。自分の助けを全く借りずに中に忍び込めている。
僅かに見えた彼の表情は、自分に見せ付ける様にして嬉し気で愉快だった。実際そうだったに違いなく、仕返しも浮かばないのできっちり蓋をして戻った。

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