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真を潜め偽紛う
暫くの間全くの無駄な時間が過ぎて行く。自分が話すかレザラクさん達が音を上げるかのどちらかでしかお互い無言の時間は終わらない。自分は今の所何をされても口を割る気は無い。
長期戦になる事を予期してか早々とレザラクさんがやたらと分厚い本を小脇に積んで居た。しかし実際に読んでいるのは比較的薄い、読もうと思うなら一日掛からずに読める物。題名は『子供の手をした彼等の戦争』。

「……まあ、時間はたっぷりあるけどよ…俺は前々から気掛かりだったんだ…この本は『数年前』に発行されて『おおよそ半年前の戦争』を書いてるんだが…本っ当に信じにくいがこれは『伝記』だってよ」
「……レザラクに言われて俺も気掛かりだったし暇な時にちょくちょく調べてみたが、やっぱりここ数年で大掛かりな戦争は無いってよ?この本が伝記なら、何処の戦争を書き綴ったんだろうな?」
「……………」

あんな状態で生き残りが存在して居たなんて偶然とは恐ろしい物だ。喜ばしい事は「彼等の」とタイトルに書き表して居る為自叙伝を世間に出した者は居ないという事か。
更にレザラクさんが語ったのは「敵国側の兵士は全て民兵であり皆手が子供の様に小さいと噂されて居た事」、「予想よりもずっと街の攻略には苦労を要した事」、
「この作者本人も赤髪に青い目をした子供に特注して長年の相棒だった魔導式超級望遠レンズを片眼ごと潰された事」を明かした上で詰め寄って来た。壊したのがミナヅキの責任とは自分にも多少降り掛かってしまう。
だからと言って堂々と明かしはしない。一つの街と国との総意は裏切る事が出来ない。「マウスフロムに出た物は陰険に辺り一面に絡み付いては臭くなって変色してしまうんだ」とは町長の言葉。もしも全てを話せる相手が居るとしたならば。

「…僕の父さんなら、全てを話せるかと思えます」
「……そうか…」 

突然に自分の身体がむぎゅりと引き寄せられた。服越しに伝わる毛皮の感覚に匂い。何故こんな時に限ってヤクトさんに抱き締められて居るのだろう。油断したのは事実であり、銃を取り損ねて抵抗は牙以外出来ない。

「辛かったよな、戦争に巻き込まれて……だけど親も二人して生き残れて、本当に良かったな…」
「…………」
「……ズルいぞてめぇだけ、俺も……」

そういえばそうだ。国と街とが戦って街の方が勝つなんて絵空事にも言い表せはしない。それぐらいに荒唐無稽な事で違いない。二人に息苦しくなる程度に挟み込まれながら、しかし間違いを正せは出来なくて。
話さないままでもここまで尾鰭が着くのだ。話してしまったらどうなってしまうか。

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あきゅろす。
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