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居場所に還り口塞ぐ
気が付けば毎回毎回便利屋に設けられて居る筈の自室に入る度懐かしく感じてしまう。十数日振りに来た割には埃一つ落ちておらず清潔な様子を保って居る。机に置かれた手紙から母さんの手によるものだろう。
母さんらしい褐色の包みを開いてみると、あの力でどうやったら書けるか疑問に思える小さく丁寧な文字で自分への思いが綴られて居る。こんな時に限ってはどれだけ自分の事をこれまでに思って居たか、身体に気を付けなさい等ありきたりな文章が並んで居ると思って居た、が。

『再開した時に先ず張り手で殴ると決めて居たからそれについてはごめんなさい。父さんは探しても見付けるには限り無く無理が有ると思うから特に何もしなくて良いです。だってあなたもアイツもとてつもなくやらかすんだもの。
好きな様にやりなさい。そしたら辿り着くでしょう。そうして連絡したら拳骨片手に行くから、家族団欒を楽しみましょう。
追伸:貴方は一等地の独占でもしたいのかしら?』
「…………」

ベッドの下を見てもやはり埃一つ無かった。洗いざらい綺麗に掃除し尽くされた様で有る。引き出しの中に入れていた延べ棒すらきっちり整えられて居る有様。感謝しか浮かばない。
改めて自室のベッドに座る。座り心地は薄れてしまって居たが此処が元々の自室で間違いは無い。せめて一月はこのベッドで就寝出来ると再度身体が感触に馴染み落ち着けるだろう。
ノックの音が聞こえたかと思えば許可を得る前に入ってくる足音。銃を握って振り返ればレザラクさんにヤクトさんが銃口に驚いて居る。自分の見ている前でさりげなくドアが閉じられて。

「おっと、撃つなよ…真面目な話をしに来たんだからよ?俺達の独断でな」
「……ついでに僕を襲おうとは考えて居ませんか、疑いが晴れない限り銃を置く気は有りません」
「…まあ実践しようとはあんまり思ってないし、常日頃から四六時中考えては居ないから安心しな。気になるんなら離さないでも良いけど話はさせてくれ…頼む」

言葉に含まれた怪しさも感じたが一旦銃を置く。何時でも持ち直して撃てる様な傍に。納得したのか、二人してその場から動かず、レザラクさんは本を出したりはせずに此方を見据えた。明らかに冗談を言う様な雰囲気では無い。

「…母親と数年振りの再会なんだってな」
「予想よりも緩く解決して良かったと思います」
「父親ともはぐれっきりらしいな…」
「元々そういう性格ですから」
「…なぁ、その数年前って一体何があったんだ?」
「…………」

自分は口をつぐんだ。その質問に許された動作はそれだけしか無い。沈黙を押し通すのは昔から得意だった。このまま何日経っても喋る気は一切無い。
それこそが街の総意。あの事は封殺されなければならない。

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