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瘤を癒して主凹む
さっきの惨事もあってか、比較的皆の対応は逆に奇妙な程に優しくて。母さんに指摘されたらしく珍しく服を着て居たフーガさんが服を脱いだ上で自分の治療に取り掛かる。目に見えて腫れて膨らんで居るのが分かると楽しそうに言われた。

「…………」
「もう大丈夫ですから、行ってしまいましたからね…」
「大丈夫だって、僕達が居るんだから…ねー、セグー」

珍しくエンフィさんの胸元にしがみついている所長。恐かったのか尻尾が股間に巻いてあった。その後ろ姿に寄り添いロッシュが慰めている。あまり見た事の無い光景だ。何かしらあったのだろう。
心配そうな視線を送る何人かと、我関せずとばかりにぼんやりした目で此方を見るニッグさんが一人。先程床に打ち付けられた音でやっと状況を見にきたらしい。同じくアケミチさんがシュリケンと布を片手に眺めている。

「…それで、今度は何があったのですか?此方はあの依頼から四日後にいきなりあの彼女が…貴方の母親と名乗る人物がおぞましい形相で殴り込みに掛かり…だから大丈夫です、もう出て行っちゃいましたから」
「……………」

母さんの話に移ろうとすると、どうやら所長がしがみつく力を強めている様だ。あやしては話そうとして、一向に話が進まない。治療を受けながら周りを見てみると椅子やテーブルが一部壊され修繕の跡が見えて。

「……所長が限界だから私が話を続けるからね?あまりの顔に皆が反撃に出たけど中々厄介で…話からするに母親だって事は間違い無かったみたいだし、君を探していたみたいだから今まで何日か泊まらせたんだ…」

話が理解出来た。所長はやる時にはやるのだが基本的には食事以外は寝ている様なのんびり屋という言葉では済まされない性格の持ち主である。服装は何着か持っているどれもこれも似た様な草臥れ方をしたスーツのみ。
加えて自分の父親は定職が無かった。おまけに自分はそんな父さんに見た目以外は完全に遺伝してしまったという有様である。数年間持て余していた分の家族の牽引力を、所長に集中的に発揮したのだろう。
やたらと今日着ているスーツに糊が効いて居るのはその為か。自分と正面衝突した床の輝きが何時もより素晴らしかったのもそのせいだろう。少なくとも家事はやっていた様だ。

「…エンフィ…もう行ったのか?本当なのか?そうなんだな?嘘じゃないよな?」
「ええ、行きました…が、少しばかりは考えを改める必要が出て来たのも事実です。多少の雑務を空き時間にこなしてせめて独り暮らしに必要最低限の能力を得て…」
「……くぅん…」

哀れみを心の底から誘う様な声が所長から漏れ出たが、駄目ですよときっちり突っ跳ねられ哀しく尻尾が垂れ下がった。

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あきゅろす。
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