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鉄槌振るわれ母帰す
「…………」

繰り出された拳は、圧倒的な威力を備えたまま自分の顔面に触れるか触れないか程度の位置に止まっていた。目を開けられないぐらいの風が遅れてやって来る。
固められた拳には嘗て何人かの相手を殴って来たのだろう痕跡がはっきりと残されて居た。母さんも母さんで何かしら非凡な日々をこれまでに送ってきたのだろう。
周りの視線に加えて呆気に取られた様に口をぽかんと開いた様子が見えた。自分もここまですれすれの距離で寸止めされるとは思えなかった。性格的にもタイミング的にも。

「……なーんて、ね。まさか実の息子を全力で殴るなんて…そんな事したら母親失格よね…」
「………はい」
「この拳はアイツに…父さんにぶつけるべきよね、普通は」

普通は父さんも全力で殴るべきでは無いと思ったが、言っても聞かない筈なので言わなかった。

「…でね。残念だけど母さん、訳あって目立った行動は出来なくなってるの…もしも機会が有ったなら、父さんを探しておいてくれない?」
「……探して見付かるとは思えないけど、それでも良かったら…勿論」

次に繰り出されたのは、しゃがみ込んでからの抱擁だった。母親が実の子に実際にする様な暖かさと優しさとを立派に備えた行動。但し撫で回されてる後頭部が少し触れるだけで痛みが響く。
それでも、自分が拒む理由など全く存在して居なかった。最初は多少混み入ったもののあの街を出て行ってから数年振りの再会だったのだから。肩に埋まってる額にも痛みが走っていたが。

「……ありがと。それから不器用でごめんね…」
「大丈夫、もっと不器用な人に僕は似てるか」

首に絡み付いた腕に力が込められる。愛有る抱擁から正面からの首締めに早替わりして背筋が寒くなるのを感じた。自分に探す事を命じた割には予想よりもずっと深々と溜まっているらしい。

「…頼んだわよ…すいません本当にお騒がせしまして…息子がお世話になってますぅ…それでは……」

自分から離れると高さを二段階程上げた声でやたらとわざとらしさすら感じるぐらいに頭を下げながら皆に言葉を送り、去って行った。先ほどの打撃で力はあると無言のままに言い切ってしまっているだろうが。

「…戻るのが遅れて、大変すいませ…んでした」
「…………」

立ち上がって頭を下げ謝罪をしようとすると、殴り倒され腫れた分頭に多めの血が回ったのか、ぐらぐらと足元がふらついてしまった。

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