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再び出会い腕振るう
全身全霊を込めて恐らくは平手で殴られた事に関しては何も言い返す事が出来ない。寧ろ甘んじて受け入れる程の事をやらかしたのだから。手紙でも用意すれば良かったのか。
額と後頭部がずきずきと鋭くしかし緩慢に痛い。瘤になっている様だがまだ治療されはしないだろう。今現在も目の前に仁王立ちして待ち構える母親に対して、自分は床に正座して居る。
家族の事について、故に誰でもあまり他人には干渉されたく無い。先程の打撃で心配そうな視線が向けられても直接助けはしないだろう。自分で何とか、否、やらかした事について償うぐらいしか出来ないが。

「……さて。最初に言う事はあるかしら?」
「…無断で今まで蒸発して、すいませんでした」

頭を下げずに視線を合わせながら答える。先ず思い付いた事を。迎撃した点については秘密だから絶対に言わないが、母さんはその通りだと頷いていた。しかし数年来の再会、未だに言いたい事はあるらしくて。

「どうして蒸発したの?」
「…今考える限りでは、あの宣言を母さんとはちょっと別に受け止めたからです。僕と同じ様に受け取った友達が居たからです。だから昔に蒸発しました」

周りの皆がこっそりと声を潜めて話をして居る。昔の事を考えれば話の筋は恐らくは通っている筈だ。この後に尋ねられても全てを話す気は全く無いが。
現在母さんは何かしらを恐らくは考えている。今の言葉で完全な説得が出来るとは思えないが。触れられたらとてもまずい事になるであろう爆弾も自分の中に存在するのだから。

「…うん、まあ数年前だもの、どれだけ貴方が捻れた子供だけどその辺りは大目に見るわ。問題はもう一つ有るけど」
「……はい」 
「父さんは私には何も言わずに蒸発したけど、貴方に対して何か言ってた?」
「……言って居ました。要約すると別れの言葉を言ってました」
「…それについて父さんから何かしら私には言わない様にとか口止めされて居たのかしら?」
「いいえ」
「…つまり意図的に私には言わなかったって事なのかしら…?」

正座する自分の肩口に肉がもぎ取られそうな程に強く母の手が食い込んでいる。爆弾に触れたかと思えば既に爆発している様だ。一旦深呼吸して覚悟を決める。気を付けて食べるなら前歯は要らないだろう。差し歯を揃える資金もある。後はせめて重大な障害が残らない事を。

「はい、言いそびれて居ました、言う気も有りませんでし」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

自分の目の前で母さんが拳を振り被り全力で突き出した。自然と筋肉が発達する病気により相当な威力を含んで居るだろう固く握り締められ平手でも鉄塊と誤認した拳だ。
母親の優しさとして、頭蓋骨の中身では届かない様な手加減をしてくれる事を祈る。

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