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一夜明かして鉄堕ちる
やっとの事で帰れると思ったら、日が落ちかけて居て出歩くには危険な時間になっていた「もしかしたら」夜中に「最近見ないからこそもしかしたら」危うい類の集団に「サイは小さいからもしかしたら」目を付けられ襲われ「もしかしたら」殺されるか売られるか大変な事になる「かもしれない」との事なので一泊する事にした。断ったら無理矢理連れて行かれた筈なので。
便利屋に関しては本日休養日、中身については以前と全く変わって居ない。イセラさんが居ない以外は。最も皆はあまり気にして居ないどころか自分にやたらとちょっかいを掛けて来たが。
食後のドリンクに例によって自分の貞操が勝手に賭けられたゲーム。どうにか一等を勝ち取り「自分がこの便利屋に居る間決して自分に手を出さない」事を皆に命じて消灯。悪魔の夜は自分達と同じくまちまちである。

「……………」

空いているからと単純な理由でイセラさんの部屋で寝る事になった。この部屋の持ち主は今は居ないが、何処に行ったかは絞り込めては居る。だけど実際に見付けようとは思わない。
何をどうすれば自分が死から離れられるか生に近付けるのかと今でも遊んで居るに決まってる。他人に出来るのは当たりますようにと祈る事だが、イセラさんには必要無い。何せ彼は元天使。イメージ的にだが祈られる事は慣れ切っているだろうから。




「………………」

翌朝、朝食を摂って誘われるままドリンクを二杯飲み込んで胃袋がざわめく感覚はするがそれ以外に不調は無くやっと便利屋に戻る事が出来た、のだろうか。確かに近くまで運んでくれたエイサスさんに礼を言って、そして。
扉を開けてから時間的には一分は経って居ないだろう。何故か自分の顔は、と言うより全身の前半分が床にくっ付いて居る。口の中が鉄臭く口内に痛みが走っている。歯に触れて切ってしまったと考えられる。
先程の衝撃から察するに一瞬飛んで居た頭の中を改めて高速で回転させて。感覚的にどの様な事があったのか判断する。打ち出す。どうやら自分は扉を開いた途端に鉄塊に頭を死なない程度に殴り倒されてしまった様だ。

「…お帰りなさい」
「…………」

上から聞こえるのは便利屋の中での誰の声でもなかった。しかし自分には聞き覚えが有った。此処に来た以前の。街を離れる以前の。自分が生まれる時からの。先程の行動をやっていないと言わんばかりの優し気な女性の声。
やってる事自体は今しがた殴り倒した自分を無理矢理引き起こそうとしている相当に酷い事なのだが。立たされるとぐらぐらと頭が揺れる様な感覚。床に打ち付けたのか額にも痛みと灼熱感。

「サイ」
「……はい」

自分と同じ様な目の色に髪の色。背は頭半分以上は高く、細身と思いきや自分の肩には引き千切られるかと思う程強い力が。紛れも無く母であった。

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