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一名失せて悪魔去る
元々魔界に堕ちて行った途端に魔王を襲撃に掛かる様な相手で有るからして、病室に縛り付けられる様な存在では無い事も十分に理解は出来ている。が、事態はやはり深刻なものに違いない様だ。
傍らに立っている点滴の提げられた台の数も、ベッドの上から病室の床にまで残っている血痕の量も尋常では無い程に多い。悪魔だとしても、否、力を全て出しきり悪魔でも無くなった彼には似合いの光景、なのだろうか。

「…なるほどぉっ!」

ぽん、と手を叩いて魔王が一枚取られた様なそんな表情を浮かべている。先程の雰囲気は本気で彼方へと飛んで行ってしまったらしい。エイサスさん達も面倒臭そうな表情で視線を向けて。

「こういう事ですよ!今のイセラは壊れかけのガラス製の器に煮え滾る熱湯、つまりは私の血を入れた状態だったんです!」
「……それで、体内に回っている血液が貴方が与えた力を使い果たした事で全身に不利益を及ぼし、その為に血を抜いてついでに逃げて行ったと?」
「正解!いやー、ここまで冴えた考えは思い付きませんでしたねぇ!」
「いや、つーか血が無くなったら普通死ぬだろうが!」

シフカさんの真っ当な言葉を聞く気は無いのか、楽しそうに、病院なので声を極力抑えて笑いながら魔王は去って行った。確かに見舞いに来たのだから、イセラさんが居ない此処には残る必要は無い。
が、悪魔である皆も心配そうな表情を浮かべて居た。
自分も同じくである。ここまでの量の血を抜いた場合悪魔だったとしても大問題なのは間違いない。仮にハノンに状況を伝えたのなら捕獲用ネットを用意する所だ。拘束具を着せてでも絶対安静、胃袋に直接栄養剤を流し込まれる様な生活を強制させるに違いない。
今現在も既に死んでいるのかそれとも生きているのかすら分からない。取り敢えずは消耗した体力を回復させるのが第一で、その為にはあのドリンク含めて精の付く物を取り扱ってる場所に行っているのだと考えられる。

「おい、サイ!イセラが行きそうな場所とか思い付かねぇか!こうなったら虱潰しに…」
「その必要は無いんじゃないかな、シフカ」

同じ結論に至ったらしいエイサスさんが帰り支度をし始めた。自分もその背中を追おうとしてみれば背後から掴み上げられる感触。足先が床から浮いているが加減されてる為首は締まらない。ちゃんとしたシフカさん達が納得の行く説明が必要らしい。

「…ですから、生きるか死ぬか、イセラさんは賭けての行動なんですよ…自分がどうなるかについての」
「はぁっ!?…あー、お、おぅ…奴ならやりそうだな、そうだな…」
「それに、もうイセラは悪魔でも天使でも無くなったんだから、僕達に会うのは少し恥ずかしいんじゃないかな」
「あー、『気にしない』って言ったとしても俺達悪魔だもんねー…そうだねー…」
「…賭け事ならあまり指図はされたく無い…納得だな、帰るか…サイ、ドリンクの一杯ぐらいは」
「結構です」

悪魔らしく納得して戻って行った。心当たりは有るが、此処はイセラさんの好きな様にやらせるべきだろう。漸く戻れる。

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あきゅろす。
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