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会話終わって赤残る
映像の中では、イセラさんが非常に惨憺たる結果を残して居た。全身に取り込んだ焔を纏った攻撃は何もかも魔王に、今自分の目の前に居る彼と同じ姿をした山羊人にどれだけ当たっても効いた様子は見られない。
天使が魔界の力を強制的に得る。どう考えても無理に取り込んだ上に過剰に使い過ぎたのだろう、全身がひび割れ始め、最終的には崩れかけて倒れてしまった。魔王には一片の傷も与えられないまま。
その顔は床に倒れ伏して居てもやはり笑っていた。右下に映る言葉は「言葉からの再現」ではなく「記憶からの再現」となっている。つまりは魔王の経験。実際にあった事で全くの嘘偽りが無い。

「…見た所、貴方は襲われてるのに反撃してない様に見えますが」
「先ず受け止める事にしてるんです…そうでなくても、彼の身体は今にも崩れてしまいそうでしたから…本当に…」

魔王は自分の目の前でも、映像の中でも涙ぐんで居た。最初に見た時の様な愉快な印象は見受けられない。どちらの彼でも魔王で違いないのだろうが、しかし映像の中で彼は自分の舌を歯で噛み切って居て。

「私は彼が不憫に思いました。彼を救う手立ては何か無いのかと思いました」
「…………」
「そこで、私の力を彼に多少分け与えたのです。これで疑問が幾らか解消したでしょう」

舌から赤い、と言うか紅い濃いめの色をした血を流しながら、魔王は映像の中でイセラさんと口付けをしていた。舌を中に挿し入れる極めて濃密な物を。正確には自分の中の血を送り込んで力を分けているのだろう。
直ぐ様劇的な変化が現れる。またしても、だ。崩れかけて居た身体から紅い焔が噴き出して新しい身体がその内側で生成され始める。それは自分にも見覚えが有る赤い悪魔の誕生であり、イセラさんの復活でもあった。
再び指を鳴らす音がして、自分達の居る場所が個室内へと戻る。今の自分には何もかもが理解出来ていたから。与えられた力も全て使い果たしたイセラさんが何処まで危ない状態なのかも。

「…さぁて、笑顔で行きましょうっ!見舞い人が辛気臭いと寿命も半減しますからね!」
「…………」

先程までの雰囲気は何処へやら、何時の間にか目元の涙も全て吹き飛ばしてトイレから勢いよく出て行く。自分の手首を握り締めながら。無理はしていない上に此方側が彼の本性なのだろうか。だからこそ魔王なのだろうか。
悪魔達を引き連れてやっとイセラさんが居るらしい病室へ。やたらと巨体なドミナーさんに諸事情で両手をポケットに突っ込んだまま走るクグニエさん等かなり目立つ集団になって居るが問題は無い。足音も声も極力抑えて居る。

もっとも肝心のイセラさん本人は、病室には居なかった上に夥しい量の血痕を残していたのだが。早い話が、完全に蒸発して居た。

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あきゅろす。
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