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思考這わせて糸掴む
他人の思考を読む事において最も手っ取り早い方法は、その他人に完全になりきる事である。リストを見ながらナナカギさんが何をどうして、誰にどういった役割で脱走計画を進めて居たか。問題はそこだ。
取り敢えずは自分が収容された部屋へと入り込んで考える。助けられたからかそれともたまたまか、この辺りは比較的燃えては居ない。本棚に残っていた官能小説もそのままだ。

「…………」

今だけは頭の中に染み付いてしまっている全能感が随分と頼もしい。既に死んでしまった筈のナナカギさんの思考まで透けて見える。リストに「非情に頭の回転が早い」と特記されていても。
罪状は毒殺が数件。被害者は計十九人と七匹。名字不明。あの見た目からするに力は弱い様に見えるが実際はかなり強い。当然彼一人で脱走は出来ない。他人の協力が無い限りは。
自分の見る限りは殆ど全員を率いていた様だがそれは看守側のかく乱もあるからだろう。あの脱走対策の分厚さ、実際に逃げられるであろう相手は選ばれて居た。先ずはナナカギさん以外に確実に逃げられる役目を持った相手を見付けなければ。

「…………」

知能は弱いからこそ、他人に言われるままに八人を殴り殺した者。手紙爆弾を数百通製造していた愉快犯。殺人者と言っても様々で、彼らも死刑囚ながらあの日は大体生きて居た。
ナナカギさんが動かした場合一番効果的であろう相手は直ぐに見付かった。野心が強過ぎて同僚と成績の良い後輩を十二人殺した者である。が、頭は人並み以上にある為証拠は残して居ないだろう、よって保留。
肝心なのは僅かでも残っている筈の証拠を得なければならない事。となれば彼か。几帳面に三人寸刻みにして箱詰めしたのが罪状。物心ついた時から日記を書き毎日その習慣は続いているらしい。それが決め手となって捕まってしまった訳だが何年間も続いた習慣が急に止まるとは思えなく、彼の独房へと向かう。

「…………」

延焼も少ない、日記帳らしき本はベッドの下に貼り付けてあった。「日記帳」としっかり書かれて居る辺りこの部屋の持ち主の几帳面さが現れている。施錠されている点も含めて。
魔法で施錠されて居る為このまま持ち帰ったとしても読む事は出来ない。こんな時が有るからこその装備だ。こんなにも早々と使う羽目になるとは思わなかったが。
自作の道具箱からピッキングツールを取り出す。時間はたっぷりあるが自分の想像上では便利屋の皆が心配して居る。早急に終わらせなければ。

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あきゅろす。
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