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感動は希薄ながら達観するもの
久し振りの再会であったが、そこには感動も嬉しさも少ししか浮かんでいない。実を言うなら二度と会えないだろうと思っていたが。前の約束を反故にするとも。
パーカーのポケットから紙袋を取り出した。リボンで包まれている辺りやはり約束を守ってくれていた様で、それは非常にありがたい。渡されまだ暖かさを感じる袋を早速開くと中にはクッキーが詰まっていた。

「今食べて良いかな」
「食べながらで良いから僕の話を聞いて欲しい」
「分かった」

歪ながら丸い形状は何とか保てているクッキーを一枚、早速手に取り噛り付く。あまり固過ぎないしっとりした歯触りだ。
生地の香ばしさに中に練り込んであるベリー系の果実が程よい酸味を与えながら口の中で溶けて行く。手作りクッキーにしてはかなり上等な味わいだ。直ぐに二枚目に取り掛かる。

「クッキーを試作している時に思ったんだけど、もしかしたら君、あの時適当な事抜かして僕を丸め込もうとしたんじゃない?」
「…もしそうだったら、僕をどうする気か教えて貰えるかな」

きりきりと音が聞こえる。シゼルニーの拳が握り締められている。生身よりも金属室な音、やはり根本的な面が違ってしまっている。

「君に対してじゃないんだ。君達の種族が僕を騙くらかした事。それに怒ってるんだ…」
「シゼルニー、だからと言って僕には君を敬う気持ちは浮かばない。仲良くやって行きたいとは思っている」
「もしそうならあんな事言わなかったよね?僕が本気を出したら、君達を半月で根絶やしに出来るんだよ」
「もし君がその方向に本気を出したら、僕は半月後の深夜に死ぬんだろうね」

シゼルニーは怒っている。そうでなければ目を見開く必要なんて何処にも無い。元々今の彼にとっては自分達は塵芥にも等しい存在なのだから。
そして今しがた自分は口を滑らせてしまったのだろう。結局全能感は消えないままだが公には出さないように頭の中で努力はしてきた。先程みたいに挑発を受けたら思わず露呈するけれども。

「…サイ……何をどうやったら、そこまで遠ざかれたんだ?」
「……あぁ…そこは謝っておくよ、シゼルニー…それから、クッキーをありがとう」
「…………」

怒っていたのではなくて驚いている表情を浮かべながら、シゼルニーは消えた。様に見えただけで実際は早々とした撤退だ。種を明かせばそんなもので。
少し量が多かったが残さず食べた。約束したのは自分だから。

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あきゅろす。
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