嗜好は視線有りて価値有るもの
依頼を挟んでの、正式とも取れる便利屋同士の戦いもとい「玉虫宝石盤」争奪戦だ。初っ端から一筋縄では決して行かないだろうと解った。日時は明日の日も登ってはいない早朝。今夜は徹夜になる可能性がある。
「……紛れも無くこれは、自信の現れから予告を送ったんでしょうね…恐らくは日付通りに必ず来ますよ」
「…先ずはその玉虫何たらを見せて貰わないとな…」
「ええ、此方にどうぞ……」
一部を除いて先導するグリッドマン家に、自分たちはついて行った。まだスープを飲んでいる途中でこのままだと一食二時間半は掛ける計算になるが一部なので除いておく。今は依頼を優先。
「……ほう………」
エンフィさんが声を上げたのも無理は無い。通された玉虫宝石盤を保管する為だけに造られた部屋であって、他の物は何も無く、部屋の中心にガラスで隔たれてはいたがその盤は鎮座していた。
玉虫色は殆ど翠色だが、何色にも見える、どうとでも取れる色だという意味も持っている。これは後者の方だ。どうとでも取れる色、ではなくてどんな色の宝石も揃っている様に見える。
紅、碧、翠、橙、紫等といったどれもこれも宝石、中央に位置しているのは大粒な透明、恐らくはアダマスもといダイヤモンドなのだろう。しかも宝石の一つ一つを噛み合わせて一枚の円盤を成して居るのである。これに価値が無かったならば世界は大いにひっくり返る。
「こういった宝石には不思議な力が宿る、とは聞いた事が有りますか?」
「噂話程度でならば…ダイヤモンドはその性質より絶対の存在である事を表す、等ですかね」
「ええ。だからこそ強固な金庫に閉じ込めるのは出来ないのです。一応壁も扉も分厚い物にしていますが予告状をわざわざ送り付けて来るとは勝算があっての事。どうか力を貸して頂きたい」
「ここまで贅を極めた物を見ると何というか清々しい気分になりますね。解りました、全力を尽くしましょう」
深々と一礼しあってから、エンフィさんとアケミチさんによる結界が張られ始めた。自分とロッシュは入って来そうな場所の確認及びそのような窓などを封鎖する係。
それにしても、エンフィさんが受け答えするだけでなんという安定感だろうか。
「…………」
彼が相手に回っているなら、それはそれは穴の無い緻密な計画か突拍子も無いぶっつけ本番で十全の結果を残してしまう筈である。どうせならこの屋敷ごと丸々封鎖するか世界の裏側かに移動させてしまえば。
「…ねぇ、一つだけ質問が有るんだけど?」
「…………」
無視をするには少々難しい外見。極端な猫背にパーカーで顔を隠してしまっていて。
シゼルニー、何故君は此処に居るのか。
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