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万全可能「表裏偏向」
アケミチさんの声が聞こえなくなったのを後にして、まだ練習は出来なさそうなので部屋に戻る。確かに自分はさっき二発撃って二発命中させた。総数は少ないけれど命中率は十割。それも動かない無機物ではなく良く動く有機物のアケミチさんにである。
多分今の自分なら。目を瞑ったとしても中空に、しかも後方に向かって放り投げたコインの中心を振り向かないでも撃ち抜ける。マッチ棒の先端だけを撃つ事だって出来るのかもしれない。いや、確実に出来る予感がしている。

「…………」

銃の腕前だけでなくても、体力面ならともかく技術面なら誰にも負けないと確かな予感が自分の中から湧き上がっている。カタナを使って巻藁を四回斬る事だって出来る。恐らくは。自分の腕の延長を扱うかの様に自在に鞭を操る事も可能だろう。実践したならば。
そして魔法関連も、自分は全ての属性、全ての種類を十全二十全に扱えるに違いない。この世界中の誰よりも強く。誰よりも自由に。昼を二分で夜に変えたり、流星を真昼の空に降らせたり、何だったら隕石を堕とす事も出来るのだ。出来てしまうのだ。海を操り陸を浮かせる。何もかも全部自分の為すがまま思うがまま。

「………はぁ」

と、最早自信の塊みたいなラーツに殴り倒されてから、異様な「全能感」が自分の頭の中にくっ付いて離れなくなっているのは確かであって。元々肉体面では悉く残念な自分には宜しく無い傾向にある。
あの時の早撃ちは集中力と運との賜物に違いは無い。本当に、だ。銃をあそこまで扱えたなら他の事も出来るとは荒唐無稽、井の中の何とか。初めて扱ったのに射線が全くぶれなかったラーツを間近に見たからというのも含めている。恐らくは。
何故創るのかは出来る事は限られているからこそ。何故磨くのかは限られた中だからこそ。限り無ければ果てには空虚。自分は何でも出来るなんてそんな事有り得ない、世の中に転がっている可能性が六割程目の前に広がっているだけ。

「…………」

しかし頭の中から一行に消えない。自分は何でも出来ないと頭の中で理解しているが本能的なレベルでは何でも出来ると言っているのである。実際自分で本能に確かめないと駄目なレベルだ。
どうすれば良いか、何でも出来やしないと確かめなければならない。手頃な範囲内で。例えば今しがた取り出したコインを投げる。何百回か連続で。仮に二百回投げたとして、その内二百回表が出るだろうか。そんな訳無い。出来るともさと心が言っているが不可能だ。それを知らせるべく、終わったら全能感が消え失せている事を信じて。
不毛だがやらなければ、自分を意気消沈させなければその内支障が出るから。まずは一投目。

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