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回帰現実「鉄板朝食」
ただその部屋の中に居続けて。それ以前に扉も窓も無い部屋の中からどうすれば出られるのかは分からない。夢の中なら此所は自分の一部なのだろう。起きて居る時には決して存在すら確認出来なかった心理の奥底。
出入り口は無くても良かった。そして自分は恐らくは辿り着いてしまった。目の前に広がる公式は、今の自分が持っていた知識を発展させ発展させ発展させ更に洗練してその行く末迄が丁寧に書かれていて。確かにこれを自分が書いた、正確には思い浮かんだ。

「…………」

今は思い浮かんだだけ。誰かを殺したくなったとしてもそれは単なる妄想であって犯罪にはならない。発明品を思い浮かべたとて実際に造らなければ認めてすら貰えない。
と、床から自分の足が離れて居る事に気付いた。少し動かしてみるがふわふわと浮かんでいる。身体が宙空に放り出されて、天井に頭をぶつけないかと上を見上げたら真っ白な空間が広がっていた。
下を見ても真っ白。既に自分は部屋を突き抜けていて。夢から現実への回帰。

「…………」

夢の中で見た事は全て頭の中に残っている。朧気な点など全く存在していない。寝起きなのに頭はやたらと冴えている。腰に感じる違和感は昨日の夜が夢では無いと。
泊まったという時点でそういう事だと皆に心配されないだろうか気掛かりになった。今更の事だし実際そうなったが。

「……サイくぅぅぅんっ!出たわっ、結果!」
「お早うございます」

もう少し遅く起きていたならば、レンカさんの勢いに叩き起こされていた。




「それじゃあ発表します!このお爺様が術だと抜かして実際使っていたこの機械は…」
「この機械は…?」
『……………』
「…………」

レンカさんによる公開暴露、及び朝食の時間であった。小鉢に盛られた糸を引く豆に生卵を直接混ぜ込むという異様な料理も気になるが耳は傾ける。口は味わうのに徹する。風味は全力で拒みたいが味はそこそこ。

「…なんと!およそ五年前から使われていましたぁぁっ!」
「何だとぉぉっ!」
「当主様が人形に入れ替わったのが七年前の事!つまり…」
『…じゃって案外キツかったんじゃもん!それにっ…!』

こうまで紫色をした食べ物を見るのはまともな場所では初めてである。アケミチさんが微笑んでいるのはそれとして、口にすると相当酸っぱい。米が進む。

『…いざ身を隠れたら、何か戻り辛くなって…この人形仕込む時も誰にもばれないようにこっそり仕掛けたんじゃもん…』
「当主様…五年前忍び込んでたんですか!?腕全然衰えてないっすよ!」
「戻って来て下さい!」
「まだ俺達に色々教えて下さい!」
「おねがいしますっ!」
『お、お前達ぃぃぃっ!』

「………」

丸く収まったのはそれとして、自分の椀に盛られた米が無くなった。

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