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帰宅後は暖かくて
「じゃあ、酒場での出来事は僕の中では無かったことにして……」

歩いている間に陽が落ちて『clear-dice』前。街灯に照らされたメタリックな青色が深海のように深い。

「扉を開けなよ、一応主役なんだから。」

…扉までひんやりと冷えている。この中はきっと暖かいだろうな。

覚悟を決めて勢いよく扉を開ける。室内の暖かさが一気に外に向かって流れて。

「──ようこそ、『clear-dice』へ!」
暖かな歓迎、クラッカーを打ち鳴らす音。皆にこやかに笑っているのが。

「さぁ、新入りのための通過儀礼だ!酒だ!」
「酒だ!潰れるまで飲んでやる!」
…所長もヤクトさんもはしゃいでいる。自分を全力で楽しませようとしているのが。

「サイ君のリクエスト通り、さっぱりした料理だよ!好きなだけ食べてくれたまえ!」
「これから頑張って貰うからな!今日は楽しめ!」
…いかにも軽そうな料理をどっさり並べるフーガさんと、それを待ち詫びているようなレザラクさん。
自分を喜ばせようとしているのが。

「サイ君、便利屋の一員として決意表明を!」

ロッシュも先程とは違った明るい声で。
皆自分の発言に耳を向けてしんと静まり返って。

「……色々至らない所もあるけど、これからよろしくお願いします。」
……お辞儀をした時、傷がまた少し疼いた。
元々あんな事無ければ、自分の笑顔のぎこちなさを感じずに済んだのに。

「はい、ありがとうございました!それではっ!」
フーガさんが自分達をぐいぐい押してカウンターの前に移動させ、
液体の入ったグラスを持たされた。
……匂いからして果実酒だ。
「我が便利屋の益々の繁栄を願って……」
…所長とヤクトさんだけ持っているのがジョッキだ。
「乾杯!」
「カンパーイッ!」

言うやいなや所長とヤクトさんはジョッキの中身を一気飲み。
大体六秒程で飲み干してしまっている。大丈夫だろうか。

「…………」
「…ん?その酒はお口に合わなかったかい?」
「いえ、今日お酒はちょっと……」
「そうか、なら、何を飲みたいかい?」
「……適当なジュースを。」

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あきゅろす。
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