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高空飛行「時間削減」
元々病院の中で安らかに眠っていた筈だ。しかし何故か見知らぬ犬人に浚われてからこの有様である。今更自分自身の選択を悔いたとしても戻る術は無い。自分が居なかったならば、親友が何をするかも分かったものではない。
一人用のマフラーを三人同時に使うのは相当な無理があるとか、獣人とこうも距離を詰めると耳の裏側に体毛が触れて何とも言えない様な気分になる等といったあまりこれから先に全く関係の無い事は解ったが。

「……右に二十三度曲がってくれ!」
「はい」
「…流石に雲の上は気持ちが良いねぇ。太陽が爽やか過ぎてぶっ飛ばしたくなるよ」

狐なラーツ、人間の自分。そして案内役として志願してきたアケミチさん。三人して同じマフラーを首に巻き付け、空を飛んでいる最中である。
下に広がるのは雲海。一度突き抜けたが湿っぽくて寒さを感じて。厚着をして置いて正解だった。上から問答無用で照り付けてくる陽光はどうにもならないが。雲に反射して眩しい。
方角さえ正しければ行けるとラーツが提案したが、方位磁石だけが頼りだと言うのは何とも。だが雲の下を通るのは見られたり衝突事故があったりとそれはそれで宜しくない。
勧誘が未だ来ているから二度と事故は逢いたくない。

「僕はこんなやり方で日帰りしようって発案者をどうにかしたいんだけどね」
「もう皆と合流しちゃったし巻きでいきたいんだよ、休暇程々に自由な便利屋さんとは違ってね」
「ラーツ、今僕達は、と言うか便利屋自体が休暇中だから。所長の人見知りで」
「何で大会出たの?馬鹿なの?馬鹿なの?」
「良く解らないのは確かだ…そろそろ下降を頼む!」
「本当に合ってますか?」
「さぁな…俺の知ってる場所である事を祈ってくれ…」
「やだ、サイ君の技術の方を信じたい」

アケミチさんは論争はしない。何となくラーツと言い争うと極めて厄介な事になると感じているのか。再び雲海に向かって下降を開始して。
柔らかな見た目とは違い感触など全く無く、そして水滴が全身に纏わり付く程に湿っぽい。あまり良い気分にはならない感覚。涼しいけど全然割に合わない。
雲海を抜ける。太陽光を浴びる事はなく、代わりに雲の中と同じ様な閉めっぽさが自分達を迎えてくれた。歓迎は無い。
木製の家がやたらと多い。賑やかさが人が豆粒にしか見えない距離でも感じる事が出来る。アケミチさんがおぉ、と呟いて。

「良かった、大当たりだ」
「良い空気だねぇ。湿気を吹き飛ばしたくなるよ」

方位磁石は、信じて良かった。

[ネクスト#]

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あきゅろす。
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