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救出後は帰路へと
「…ぅっ……ッ…」
結局顔をまじまじと見られる。涙が未だに止まらない、蚯蚓腫れも疼く。

「一体何が……!これは……」
マスターと取り巻きが集まって来た。皆自分と虎人を見ようとしている。

ロッシュが気を遣ったのか捲られていた自分の服を元に戻す。

「…今までこの虎に襲われていた。……それで間違い無いか?」
虎人を見ていた牛人が自分に向かって尋ねた。
泣きながら何度か頷く。
「そうか…その兎が『気になる』と言うのでな…」
ロッシュが自分がトイレから帰ってこないことを不審に思って……
今は感謝出来る程心に余裕が無い。

「……皆、そんなに見るな。誰か憲兵に連絡をしてくれ。」
マスターが取り巻きを散らしてくれて、トイレの中は静かになった。
……トイレの床に座らされているのか。
「…サイ、もう落ち着いた?」
いつの間にか涙は止まっていた。顔に残った水を袖で拭い去る。

「憲兵には私が何があったのか話す……今日はもう帰れ。」
「……立てる?」
「…じんじんするけど、何とか……」
やった、ようやく口から意味のある言葉が出せた。
「じゃあ、戻ろう……」
ロッシュが肩を貸してくれて、立ち上がるのは簡単に……やはり腹が疼く。





「…皆には、この事は秘密にしてくれない?」
蚯蚓腫れを何気なく押さえながら、ロッシュに自分の意見を打ち明ける。
「……理由は解るけど」
肩を借りる程体力は消耗していないから、並んで道を歩いている。
つけられた傷は残っていて、感触もしっかりと覚えているけど
……待ってくれているみんなに、「襲われかけていました」と言ったら、その後どう接したら良いかなんて
…誰だって言葉に詰まる筈だ。

「バレたらどうするの?所長が嗅ぎ付けたら…」
「……その時は、その時」
バレた後に考えよう。

「…本気で心配してるのに……」
ロッシュが悲しそうな眼でこちらを見つめている。
確かに、自分より背の低い便利屋の後輩が知らぬ間に襲われていたら、先輩として立つ瀬も何も無い。
出血はしていないが、跡は暫く残るであろう。

「…心配かけて、ごめん……」

でも、皆にも心配はかけられないから。
それはロッシュにも解っている筈だから。

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あきゅろす。
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