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襲撃は未遂にて
「っ!?」
口を塞がれているから自分の首が動かず、自分の線が何本か走った身体と便器ぐらいしか見えないが、

今の音はドアか何かが破壊された音だろう。
それを聞き取ったこの虎人は首を曲げて出入り口を見ているのだろう。

すると衝撃が虎人を通して自分に伝わる。
踝から膝裏まで、硬い物にぶつかったような衝撃。
「がっ…!…」
虎人が仰向けに引っくり返って、自分もそれにつられて倒れて。
逆さまに乱入者を見ようとしたが、殆ど虎人の喉と下顎しか見えなかった。

「…が……っ…」
その虎人の喉か顎かに何かが素早くめり込んだ。
その反動で虎人の身体がびくんと跳ね、自分の身体にそれが伝わった。
「…大丈夫か?」
「………」
……犬人達の取り巻きだった牛人だ。先程めり込んだのはこの人の拳のようだ。

「!…サイ!何されてたの!?」
「………ぁ…」
ロッシュだ。両手に持っていた双銃を腰のホルスターに戻し、こちらに駆け寄り自分の身体を揺さぶる。

「!……こんな傷…」
「………」
悲しいのか、もとから垂れているロッシュの耳が更に寝せられた。
胸から腹にかけての蚯蚓腫れも屹立した自身も見られた。
何もされてない訳では無い、何をどうされたか言いたい。
しかし声が出ない。
自分は大丈夫だと言いたい。それでロッシュや牛人を安心させたい。
でも声が出ない。出せない。
これじゃ誰も自分を心配したままになってしまう。
生温い滴が頬を通り抜けた。涙だ。自分自身の涙だ。
なんだ、自分はまだ泣いている。止まっていない。
早く止まって欲しい、このままだとみっともない、

「ぁ…っ……」
赤ん坊みたいだ。意味の無い言葉が意味も無く出てくる。頬を伝う涙の量が増えた?
胸の奥が熱い?恋心ではない?何かで一杯になっているのか?
「………っ…」
涙が止まらない。溢れ出してくる。自分で起き上がれない。
「サイ、落ち着いて……」
ロッシュの声だ。自分を虎人から離して、適当な所に座らせた。

…そんな風に、背中をさすらないで。頭に手を置かないで……駄目だ、そんなことをされると
「…ッ……っ…!」

涙が止まらないじゃないか。

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