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気絶で筆舌よりも切舌
「……………」

目が覚めたら椅子に座らされた状態になっていた。後ろ手に手錠が掛けられており逃げられそうに無い。手錠を無理矢理引きちぎるなんて自分には到底不可能だ。
目の前には白狼人が神妙な面持ちで自分を見つめている。どうやら気絶させられた後に此所まで運ばれた様である。銃やら牙すらも没収されていた。今の自分に対抗手段は、無い。

「………裏切り者の名前を…言ってくれたなら、幾らかの便宜を計ろう」
「……………」
「その、普通なら監獄で過ごす期間が何十年の所を十何年程になるかもしれない。だから…私にだって仲間は居る、辛い事は分かる。教えてくれないかっ……」

急に面倒臭くなった事はどうしようか。このまま無言を通しても正直に話しても誤解は解けないだろう。白狼人の性格から察すると。
と、なれば答えるか無視をするとは別に何をしたら良いか少し考えた。白狼が言おうか言わないか迷っていると思い込むのを信じて。
自分は、口を開いた。いよいよ言ってくれると思ったのか、白狼が耳を動かす。残念ながらそんな事は毛頭無い。自分は如何に状況を切り抜けるかしか考えていないのだから。

「裏切り者、自分の仲間は」
「……仲間は?」
「………そもそも居ませんから」

白狼人の表情が更に冷たくなったが、それでも決行しなくてはならない。舌を僅かに中空突き出して、
躊躇わずに思い切り噛んだ。肉の中に歯が突き刺さる感触。痛み。鉄の味。白狼人の驚いた表情。

「……げぶっ」
「だ、大丈夫かっ!?」

果たしてどっちの意味で掛けられた言葉かは解らないが、案外効く物だ。唾液と混ざって吐き出された血は相当な量に見えるが、完全には噛み千切れては居ない。
白狼人がどう取るのかが問題である。いきなり舌を噛み切りかけた自分もどうかとは思うが。痛い。

「……自ら命を絶ってまで…おのれっ!憲兵まで引き入れたのには飽き足らず、こんな子供をそれ程までに追い詰めるとはっ!」
「……………」

何かもう白狼人は、深々と入り込んでしまっている。自分には引き揚げる余地が無い。誰か居ないだろうか、確か黒豹人の女性が隣に居てストッパー役をしていた筈だが。痛い。
と、扉をノックする音が。恐らく入ってくるのは憲兵だろうしわざわざする必要は無い。中々礼儀正しく律儀な相手が扉を隔てて居るらしい。

「……ミゲツ君っ!大至急だっ!ハノン君かヴィアナ君をっ、寧ろ治癒魔法が使える相手を呼んでくるんだっ!」
「ええっ、は、はいっ……!」

また何処か見覚えがあるマズルの細さが特徴的な犬人だった。声はまだ若い。そして舌が痛い。
もう少し喋れなくなる点については、考えるべきだったかもしれない。何れにせよハノンが来たら何もかも終わるから良しとしよう。

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あきゅろす。
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