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競争中には本質発揮
気持ちスタートダッシュは無事に出来た筈だ。背後から、主に右耳に強烈な爆音が響いている。前にレンカさんが教えてくれたレースの内容。
細長い楕円形のコースを三周、という実に在り来たりな物で、だからこそ飛行ユニットの性能の差、操縦技術が出てくる。
もう直ぐ右に曲がらなければ、身体を傾けて出来る限り速さを落とさない様に旋回。無事に成功、後は暫くの間一直線、また加速しようか。

『─────!』
『────!』

何も聞き取れないが、大分騒がしいという事は解る。自分は客席の真横を全速力で突っ切っている。また右折しなければ。
問題無く右折。直線を加速。自分がスタートしたラインが真下にかろうじて見えた。二週目、狼人も獅子人も自分の前には見えない。
一周目と比べて速度が上がっている。より集中をしなければ。直ぐ様また右折。一周目よりかは少し身体がぶれた。今は如何に丁寧に曲がるかよりも速さだ、これで良い。
マフラーがどれだけ加速出来るか、自分も正確には知らない。但し『月』がどれだけ高出力な代物かは自分だけでなく他の多数の方々も知っているだろう。
それを自分が手に入れてしまったとはトキザ以外知らない。あまり速くしても止まるのに困る、加速はあくまで緩慢に。
一周半を過ぎた所で、自分の視界にやっと別の相手が映り込んだ。狼人だ。足下のボードが光を帯びて、滑る様に飛んでいる。何故追い付かれたか、単に自分がこれ以上の速さを恐れていたからだ。

「………………」

客席も見えない。もう何も聞こえない。それ程までに自分は速さを上げた。負けたくないやら勝ちたいという思いでは無い、どこまで速くなれるか、改めて興味が沸いてしまった。今はそれが解る絶好の機会だ。
加速を止めずに旋回。腹の中が僅かに揺さぶられるのを感じる。これぐらいなら特に支障は無い。胃の中の物も収まったまま。
三周目。加速。右折。圧迫。直線に到達し更に加速。騒がしい。主に風切り音が。後一周を切った、このままだと勝てる、レンカさんも正しかった、どうしても覆せない程の性能差があった。
右折して加速、直ぐ様ラインを越えた。ゆっくりと減速すると、滅茶苦茶な歓声と、呪いの言葉が自分を包んでくれた。

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あきゅろす。
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