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手元に図星に破壊に機影
矢は銃弾よりも遅い。その手の名人ならば素手で払い落とす事も十分可能なのだろう。さっき成し遂げたのは町長だが。
四方八方からの飛び道具も上手くやれば、例えば来る順番を知っていれば対処は可能だ。頭を狙ってきたなら伏せても良い。町長は全ての矢を障壁に触れさせなかったが。
犬人はマスクを着けているが、首回りなどは毛に包まれた肌を露出している。恐らくは吸ったりしたらまずい代物だ。つまりは、吸わなければ良い。

「思い出したぜっ!確かあれは………何年か…違う、何分か……鉛筆の変わりに石墨挟んで使ってた頃だ!多分確実にな!」
「な…………」
「そうだ、確か床がベタベタしてて非常に足が滑り易かった。おまけに飛び交う蝶々には記号みたいな殴り書きの字柄だったから懐かしくも何とも無い。
しかも踏み台に座ってたから足下しか見えなかったんだよ!酸欠だからっつって唇を奪おうと凡そ二十の種族が………」
「………………」

町長の口から溢れ出すのは大体が虚言だ。しかし嘘は無い。彼は本当に世界が話した通りに見えている。試しにやってみた嘘発見器に全く反応しなかった。
犬人は呆れた表情で町長を見ている。有色のガスは町長の口元から吸い込まれる様子は無く、つまりは一息も吸ってはいない。

「………つまり、お前は………母親似の三男坊だ!」
「っ!」

犬人の様子が、明らかに変化した。まるで核心を突かれたかの様な。

「運動は出来るが下の子には劣る!勉強は出来るが親からは気に掛けられない!だからでっち上げたんだ、親の未練を晴らす為でな!そしてお前は乾燥肌!間違い無いかぁ!」
「…誰が乾燥肌だ!そして何故知っている!」
「教えて貰ったんだよ!頭上の床下からな!」
「………やっぱ、変わんなくて安心したね」
「しましたか?」
「……どうだか」

町長はごくごく稀に真実を漏らす。何故か解らないが人の過去だったり再来週の天気だったりをぴたりと当ててしまうのだ。理由は「町長だから」である。

「何故…そうだよ…親父が貴様等を…手の小さい人間をひたすら殺せっつってたんだよ!そうしたら財産総取りだ!だから俺は……」
「節度持てよ青春!」
「誰が青春だぁ!」
「だからお前は長男坊から」

直後、爆音と振動が響いた。障壁内にも僅かに届いた衝撃。思わずぐらつく。
有色のガスが逃げていく。上に。其処には光が。

「……床を滑られるんだよ!」

何かが空の上を飛び交っていた。

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あきゅろす。
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