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結果に安堵に帰還に入口
何と言うか緊張している。主に熊人が。彼は眼を瞑って眠ろうとしていたし、自分は暇を潰そうと熊人達や見張りを観察する。
引っ掛かりませんように、引っ掛かりませんようにと小声で呟きながら手を擦り合わせている。多分彼は大丈夫なのだから完全な杞憂だ。
見張りはまるで自分達が居ない者として直立したまま壁を見ている。彼は薬を打たれもせずに寝ている。案外暇が潰せるものだ。

「………待たせたな。検査の結果だが…」
「…………どうか、お願いしますお願いしますっ…」
「……………」
「……………」
「…彼は陰性。それ以外は陽性だ」

カーテンの向こうから現れた、自分達の血液を採取した医師。手元には紙切れ三枚。そして、指差したのは熊人。自分と彼は陽性。助かったのは熊人一人。
熊人の震えが止まった。呟いていた言葉も止まった。自分達の目の前で救われた様な実に安らかな表情へと変わっていく。
そして自分達を方を振り向き、表情が曇っていく。憐れんだ眼。あまり良い気がするものでは無い。自分達はこれから囲われる。出て行くのは熊人一人。

「…あの、その……」
「……………」
「……………」

自分達にどんな言葉を差し向けたら良いのか、解らないから言葉を濁す。自分だって同じ立場ならば思い付かないだろう。
故に無言を通す。視線だけで語る。

「荷物を取りに行かなければならないから、結局はあの部屋に戻る。各自、一列に並び…もう分かるよな?」

こうして自分はまた熊人の広い背中に手を置き、自分の背中に彼の手と鎖の感触を伝え、先ほど数えた歩数を逆順に辿る羽目になった。
目隠しを取ると扉。見張りによって解錠されて、再び自分達に視線が集められる。熊人の後ろをついていけば自分のベッドも簡単に見付けられて。

「その……頑張りなよ?」
「……………」「……………」

リュックを背負った熊人が、そう自分達に呟いてから歩いていく。穏やかさと此方に対する同情が混じった視線。この部屋の中で唯一の獣人が、閉じていた扉に手を掛けようとした。
が、開かない。内側には持ち手が存在していないのだから。自分も今気付いた。

「………え?」

熊人も気付いた。どうやら自分達を出す気は、向こうには無いらしい。

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あきゅろす。
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