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祈願に首輪に会話に終了
落ちませんように、堕ちませんようにと隣の熊人の呟きを聞きながらひたすらに長く引き延ばされた時間に耐える。まだスペースは沢山あるのに自分の隣に座るのは何故だろう。
長々とした移動から、またゆっくりと下へ降り立っていくのを感じる。熊人が心配そうに身体を震わせた。

「おっ、堕ちて…堕ちてないよね…?着地だよね?」
「多分そうだと思いますよ」
「多分って事は、もしかしたら、堕ちてる場合もあるのかい?」
「そうだったらもう何も出来ないから、今の内に落ち着く事が大事ですよ」
「そうかぁ………えっ」

熊人の心配はまた杞憂に終わった様だ。着地したのか、機内に響く振動が無くなった。扉が開かれる。今度は誰だろうか。
実に静かに、彼は入ってきた。細身で色白の人間だ。服装はありきたりな物だが、首に着けられた金属製の首輪が目を引く。身長は自分より頭半個程大きかった。

「………………」
「………………」
「……やあ、君は」

何か挨拶をする訳でもなく座り込んでしまった。しかし首は喋りかけた熊人の方向を向いていて。
此所も収穫は一人だった。中々居ないものである。だが彼の手は小さい。自分と同じくらいに。どうやら彼は、自分と同じ様だ。

「……君のその首輪は、一体何なのかな?」

再び機体が振動し始め、地面から離れたのか妙な浮遊感が足元から沸き上がる。ひぃ、と熊人が声を漏らした。彼は全く動じない。

「奴隷だから」
「えっ」
「御主人様の所有物だという証だから」
「えっ」
「……………」
「…………えっ」

これ以上話す気はないらしい。多分出された質問には確実に答えるだろうが。より確信が持てたような気がする。彼は自分と同じだと。
熊人は戸惑っているが、助け船を出そうとは思わない。最初に話し掛けたのはそっちだ、故に収拾も一人で着けて欲しい。
仮に自分が話したとして、内輪でしか通らない話しか通じない場合がある。

「…潜ってた?」
「………うん」
「通りで、知らないと思った」
「えっ」

向こう側から此方に話してきた。言葉から察するに彼は潜っていなかった。自分より若そうな顔をしているのに。
熊人は戸惑っている。すでに話したい事は終わったのか彼は口を閉じて、結局熊人内の蟠りは解消されない。

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あきゅろす。
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