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着座、掃除、進歩と予感
自室の椅子に腰掛けると、やっと便利屋に帰ってきたのだな、と実感が沸き上がってきた。二度に渡る放置のため、埃が積もっている。
流石に無視は出来ないから、掃除をしようと思った。夜中にするというのも変な話だが、即実行に移る。道具が何処にあるのか捜索開始。

「……………」

掃除機は音が響きそうなので止めた。見付けた箒と塵取り及び水入りのバケツとモップを適当な箇所に置く。掃除開始。先ずは箒で目立った箇所にある埃を掃き取り、一ヶ所に集めてから塵取りで一掃。
続いて水気を切ったモップで、床を丁寧に拭く。汚れてきたらバケツに浸して、再度水気を切ってから。

「ふぅ……」

掃除が終わると共に、開け放した窓から風が流れ込んできた。涼しげな空気で濡れた手が冷えるのを感じる。
そういえば昔は、箒と塵取りなんか自分は見た事も無かった。使う必要が全く無かった為に。「円盤」だけあれば掃除は十分に出来ていたから。

「……………」

強化装甲服は最新の武器であり防具、とレンカさんは言っていた。ならば何故自分には既視感があるのか、二番目に間近で見ていたからだ。
昔々の懐かしい事。金属音に徐々に組み立てられる鎧、会話をしながらの読書。何をどんな順番で読んだのか、毎日の話の内容まで精密に思い出す事が出来る。

「…………」

後悔はしていない。あの時自分はまだ子供だったのだから。

「……サイ、居るか?」

ノックと共に扉の影から誰かの姿が。伊達眼鏡、白色の体毛、豹柄。色々感付かれてしまったアケミチさんだ。

「どうぞ」
「……前、お前が会っていた奴と話をしたが」

部屋の中に招き入れれば、真っ直ぐ自分の目の前まで歩み寄ってきた。両肩を掴まれ、視線がぐっと近付く。鼻先同士が触れ合いそうな程に。

「奴とは縁を切れ。純粋にお前の事が心配なんだ……」
「……………」
「……………」

そのまま見詰め合っていたら抱き締められた。しなやかな毛並みを感じる。

「……ふむ、悪くない」
「…………アケミチさん」
「何だ?」
「丸見えです」

扉の前には、棍棒を構えるヤクトさんに助走をつけているレザラクさんが。自分のせいでまた修羅場になるのだろう。少し厳しく接するべきかもしれない。
次の瞬間眼に映ったのは、振り返りながら小刀を取り出すアケミチさんの背中に、レザラクさんの靴裏、ヤクトさんの歯列と両脇の下。
ああ、自分は帰ってきたのだな。改めて実感した。

【第十五巻 終】

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あきゅろす。
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