起床、滴下、不意と暗転
「…………………」
気が付いた。夜だった。見覚えの無いベッドに何時の間にか寝かされていた。小さく明かりが灯った部屋の中だ。
首が痛い。身体全体の筋肉が凝り固まっている様だ。どれほど寝かされていたのだろうか。
右腕には点滴の針が刺さっていた。未だに一定の間隔、パック内の液を自分の血管に注ぎ続けている。
「………………」
盗られた物が無いか確認。服はそのまま、銃は二丁とも無し、牙は健在。
鞄は小脇に置いてあった。金品やら何やらは無事だ。しかしマフラーも捕集器も見当たらない。案外まずい状況だ。
誰か入ってきた所で自分が対応出来るとは思えない。相手が武器を持っていたらこれはもう絶望的。
それでも万が一の時に備え、腕に差し込まれた針を自ら引き抜く。血が僅かに滲んだが気にする程では無い、パックの中身を調べてみると糖液だった。
「……そろそろ起き」
誰かが喋りながら扉を開きかける。自分が出来る有効な抵抗と来たら、不意を狙う事しか。牙を構えて扉を押しながら相手の胸元へ、
「にゃっと」
拳が空を切った。いきなり動かした為か痛い。命の危険を感じた為かやたら周りの景色が緩慢に見える。腕を取られ、背中に手が置かれ
「っ……」
床に押さえ付けられていた。こうなったら自分一人ではどうする事も出来ない。諦めて身体の力を抜く事に。
「……起きてるようで何より。元気そうで良かったにゃー」
「…………?」
自分を組伏せた相手の口調が、以前聞いたことがある。少なくともにゃーにゃーと意図的か癖なのかは知らないが語尾に加えているのは、
彼の名前を知らなかった。だが憲兵だった筈だ、というか、此所は異国の地ではないか。何故居るのだろう。
「サイ君、そうきびきび身体は動かせない筈にゃ。何せ二日半丸々寝てたんだからにゃー…」
「…………」
「ふんふん、質問したい事が一杯あるって後頭部だにゃ。取り敢えずは…」
背後に感触。腕を取られたまま抱き着いてきたらしい。ごろごろ、と喉が鳴りながら自分の首筋に頬擦りされて。
「目覚めた記念に一回……」
そんな事を言われても。すぐ側で違う誰かの足音ががががががががが。
[*バック][ネクスト#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!